ロシア軍の戦費は「1日3兆円」説 8年前の成功体験がプーチンを狂わせた

ロシア軍の戦費は「1日3兆円」説 8年前の成功体験がプーチンを狂わせた

ロシア軍の戦費"1日3兆円"説

ロシア軍の戦費は「1日3兆円」説 8年前の成功体験がプーチンを狂わせた

2016年に来日したプーチン大統領

 読売新聞オンラインは3月30日、「戦費試算『1日最大3兆円』、高価な長距離精密誘導弾使用にプーチン氏激怒か…『支持失う前に金欠に』」との記事を配信した。

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 記事によると、イギリスの研究機関が「ロシアウクライナ侵攻が長期化するにつれ、戦費がうなぎ登りに上昇している」と発表したというのだ。

《英国の調査研究機関などは今月上旬、ロシアの戦費に関し「最初の4日間は1日あたり70億ドル(約8610億円)だった。5日目以降は200億〜250億ドル(約2兆4600億〜3兆750億円)に膨らんだ」と試算した》

 この報道に対し、Twitterでは誤訳という声もある。担当記者が言う。

「拡散しているツイートによると、billionの意味を勘違いしたというのです。Billionには『兆』という意味もあるのですが、『10億』を表す場合もあるとの指摘でした。ただ、調査機関の原文を確認すると、単純な『戦費』ではなく、『トータルの経済的損失』を試算した、というのが真相のようです」

 これまでに報道された戦費も見てみよう。例えば2021年、アメリカ軍はアフガニスタンから撤退した。その際、アメリカ政府は20年間で約8370億ドル、約92兆円の戦費が使われたと報告した。

「20年間で92兆円を割ると、1年で4兆6000億円という数字になります」(同・記者)


■第二次大戦の戦費


 ただし、21年8月にNHKが報じた「米軍アフガン撤退完了 20年間の米軍死者2461人 2万人以上けが 戦費92兆円」によると、戦費が253兆円という試算もあったという。

《アメリカ・ブラウン大学のワトソン国際問題研究所が国債の利子などを含めて試算したところ、実際にはその3倍近い2兆3000億ドル余り・日本円でおよそ253兆円に上るとしています》

 こちらも20年間で割ってみると、1年間で約12兆6500億円という数字になる。驚くべき金額と言えるだろう。

「過去に戦費の額が報じられたのは、アメリカ軍のものが大半です。今の物価水準に直すと、例えば第二次大戦におけるアメリカの戦費は約452兆円だったとか、ベトナム戦争は約83兆円だった、という報道です」(同・記者)

 中国軍事問題研究家の田中三郎氏に、読売新聞の報道をどう見るか、取材を依頼した。

「ロシア軍の戦費が1日に2兆円という額なのかについては、なんとも言えません。とはいえ、ロシア軍の戦費が急激に上昇しており、国家の屋台骨を揺るがしかねないほどの額になっていることは間違いないと見ています」


■ロシア軍は貧乏!?


 意外に思う人もいるかもしれないが、ソ連の時代とは異なり、ロシア軍は“軽軍備化”を進めている。

 朝日新聞デジタルは2021年4月、「世界の軍事支出、過去最多 コロナ禍でも2兆ドル」の記事で、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の推計値を紹介している。

 これによると、以下のような順位となる。

◆1位:アメリカ 7780億ドル(約95兆4800億円)
◆2位:中国 2520億ドル(約30兆9200億円)※推定値
◆3位:インド 729億ドル(約8兆9400億円)
◆4位:ロシア 617億ドル(約7兆5700億円)
◆5位:英国 592億ドル(7兆2600億円)

 ロシアは4位とベスト5には入っているが、アメリカや中国と比べると桁が全く違うことが分かる。ロシアの軍事費はアメリカの約7・9%、中国の約24・5%に過ぎないのだ。

「ロシアは核兵器にはそれなりの軍事費を投入していますが、軍隊は自国の経済状況を反映させ、身の丈に合った規模にとどめているのです。冷戦時代、アメリカとソ連が二大軍事強国として対峙していた時代からすると、隔世の感があります」(同・田中氏)

 ウクライナ侵攻におけるロシア軍の基本作戦は、そもそも多額の戦費を必要とするものだという。


■戦車1両は数億円


「2014年、ロシアはウクライナ領土だったクリミア半島に侵攻し、クリミア共和国を誕生させることに成功しました。ロシア軍の被害はほぼ皆無という成功体験から、今回も『大軍でキーウ(ロシア語表記でキエフ)を目指せば、ウクライナ軍は総崩れとなる』と楽観的な見通しを持っていたと見ています」(同・田中氏)

 とにかくロシア軍が大軍であることを“演出”するため、国内から戦車や兵士をかき集め、ウクライナに向かわせた。もともと軍事費が潤沢ではないロシア軍にとっては、これだけでも負担は大きかったと考えられる。

「その代わり、短期決戦を目標にすることで戦費を抑えようとしていたと思われます。数日や1週間程度でキーウが陥落すれば、それほどの負担にはならないと考えたに違いありません。ところがロシア軍の目論見は外れ、ウクライナ軍は必死に抵抗してきました」

 ロシア軍の主力戦車である「T-90」は、輸出を強く意識して開発された。購入国の軍事予算に合わせ、“ハイスペック”な高額版から廉価版まで、バリエーションが豊富だ。

 そのため販売価格に関する報道も諸説が入り乱れ、1両で4億4000億円とか、1億7000億円など、様々な額が伝えられている。

 自国で生産している戦車だから、ロシア軍の購入費は輸出価格よりは安いだろう。とはいえ、国費から1両あたり億単位という費用を捻出しているのは間違いない。

 ウクライナ軍の対戦車ミサイルで攻撃されれば、億というコストが投下されている戦車が一瞬にしてなくなってしまう。


■停戦交渉の意味


「ロケットでウクライナの街を攻撃するにしても、当然ながら戦費がかかります。性能の良いロケットであればあるほど、価格が高いのは言うまでもありません。もともとギリギリの予算で切り盛りしてきたロシア軍にとっては、重い負担になっているでしょう」(同・田中氏)

 戦費の増加に加えて、厳しい経済制裁もボディブローのように効いている。

「最近のロシアは、停戦交渉に応じる素振りを見せるようになってきました。もちろん様々な思惑から交渉のテーブルに就くポーズを取っていると考えられますが、その中の一つに国家財政の悪化があるのは間違いないと考えています。戦費の増加はロシアに深刻な影響を与えているに違いありません」(同・田中氏)

デイリー新潮編集部

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