ロシア軍の戦車は弱すぎで話にならない…なぜウクライナ軍のミサイルにやられまくったのか

ロシア軍の戦車は弱すぎで話にならない…なぜウクライナ軍のミサイルにやられまくったのか

露軍"敗北"で軍需産業打撃も

ロシア軍の戦車は弱すぎで話にならない…なぜウクライナ軍のミサイルにやられまくったのか

ロシア製の戦車T-72(Vitaly V. Kuzmin/Wikimedia Commons)

「週刊新潮」4月7日号は、カラーグラビアで特集「意外と弱いロシア軍」を掲載した。ウクライナ軍の攻撃を受けたロシア軍の戦車T90−Aの写真が何枚も紹介されている。砲塔が完全に吹き飛ぶなど、完膚なきまでに破壊されたことが分かる。

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 欧米諸国から供与を受けた対戦車ミサイルやドローン兵器を活用し、ウクライナ軍がロシア軍を苦しめていることは、全世界のメディアが報道している。

 だが、ロシア軍の正確な被害については、諸説が入り乱れているのが実情だ。

 読売新聞オンラインは4月4日に配信した「兵力で劣るウクライナ軍、ドローンと携帯式ミサイル駆使し奇襲攻撃…露軍の主要都市攻略阻む」の記事に以下のような記述がある。

《英紙インデペンデント(電子版)は2日、露軍がウクライナ侵攻後に失った軍用車両が、戦車331台を含む2055台に上るとする研究グループの集計を報じた》

 また、在英国際ジャーナリストの木村正人氏は、YAHOO!ニュースに「『ロシア軍死者は9861人』と政権寄り露大衆紙が報じたワケ 追い詰められるプーチン」との記事を投稿。

 記事中ではウクライナ軍参謀本部が3月21日に発表した戦果が引用されている。それによると、ロシア軍の戦車498両を破壊したという。

「331台」だとしても、「498両」だとしても、驚くべき数であることは間違いない。そしてこの“敗北”が、ロシアの軍需産業に大きな影響を及ぼしそうなのだ。


■武器輸出国ロシア


 ロシアは世界有数の武器輸出国だ。国際統計・国別統計専門サイト「グローバルノート(GLOBAL NOTE)」は、「世界の武器輸出額 国別ランキング・推移」を掲載している。

 2021年5月に更新日された2020年のランキングから、ベスト3をご紹介しよう。

【1位】アメリカ 93億7200万ドル(1兆1567億円)
【2位】ロシア 32億300万ドル(3984億円)
【3位】フランス 19億9500万ドル(2481億円)

 CNN(電子・日本語版)は2018年12月、「ロシアの軍事産業、世界2位の規模に 英国抜く」との記事を配信した。

《軍備管理研究などの団体「ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)」は11日までに、ロシアの軍事産業が英国を抜いて世界2位の規模に拡大したと明らかにした》

《SIPRIが算出した指数によると、2017年の武器売上高の総額に占めるロシア企業の割合は9・5%と、米国の57%に次ぐ2位だった。前回2位の英国は9・0%で3位に後退した》

 担当記者が言う。

「1991年にソ連が崩壊すると、ロシア経済も大きなダメージを受けました。それが2000年代になると、原油や天然ガスといった“資源大国”として復活を果たします。その際、実は軍需産業も重要な“輸出産業”として外貨を稼いできました。陸軍が強いというイメージがあったため、特にロシア製の戦車を多くの国が購入したのです」


■返品が殺到!?


 ある軍事ジャーナリストは「ウクライナ侵攻の戦況については、当然ながら、全世界の軍事関係者が注視しています」と言う。

「各国の軍関係者が戦況をウオッチする中、ロシア軍の戦車が次々に破壊されています。特に今はSNSが著しく発達しています。待ち伏せしていたウクライナ軍が、ロシア軍の戦車をミサイルで攻撃。戦車が破壊される一部始終が動画に収められ、ネット上で拡散しています。ロシア製の戦車を購入した国は、頭を抱えているでしょう」

 ロシア製戦車の“ベストセラー”として知られるのがT-72だ。1973年に正式採用された、旧ソ連の代表的な戦車だ。

「ポーランド、チェコ、ルーマニア、東ドイツといった旧東側諸国がT-72を採用したのは、西側との緊張関係を考えれば当然でしょう。しかし旧東側諸国以外でも、T-72は売れたのです。具体的には、中東諸国、アフリカ諸国、インド、東南アジアでもラオスやミャンマーが購入しました」(同・軍事ジャーナリスト)

 近年でも、インドが2019年、ロシア製のT-90という戦車を購入したと、ロシアのメディアが報じている(註)。

 記事では契約額を19億3000万ドルと伝えたものの、その他は《詳細は明らかにされていない》とした。


■“バトルプルーフ”


「一体、何両の戦車を購入したのかは分かりませんが、インド軍の担当者は『できることなら返品したい』と真っ青になっているかもしれません」(同・軍事ジャーナリスト)

 兵器市場の世界には“バトルプルーフ”という専門用語がある。どんなにカタログ上で高性能が謳われていても、実戦で役に立つかは分からない。

 その分、実戦で戦果を挙げると太鼓判が押されたことになり、その武器の市場価値が跳ね上がる。

「エグゾゼというフランス製の対艦ミサイルがあります。70年代に開発されましたが、当初はそれほど高価なミサイルではありませんでした。ところが、1982年のフォークランド紛争でアルゼンチン海軍が攻撃機に搭載して発射すると、1発でイギリス海軍の駆逐艦を撃沈したのです。エグゾゼは“バトルプルーフ”で評価され、市場価格が跳ね上がりました」(同・軍事ジャーナリスト)

 最新の兵器市場では、ウクライナ軍が使っている兵器が“バトルプルーフ”をクリアしたとして注目を集めている。

「対戦車ミサイルのジャベリンやNLAW、対戦車弾のAT-4、トルコ製軍事ドローンのバイラクタルなどは、最新の兵器市場では価格がうなぎ登りになっているでしょう。まさに戦場での強さを証明したわけです」(同・軍事ジャーナリスト)


■“モンキーモデル”と言い訳


 今回のウクライナ侵攻で、ロシア軍の戦車は“バトルプルーフ”の結果、役立たずだと明らかになってしまったわけだ。

 実は、ロシア製戦車の性能が疑問視されたのは、これが初めてではないという。

「1990年に起きた湾岸戦争の際、イラク軍のT-72がアメリカ軍の戦車M-1やイギリス軍の戦車チャレンジャーと戦ったのですが、こちらも大敗を喫しました。世界の軍事関係者が『ひょっとしてロシア軍の戦車は弱いのではないか?』と疑問を抱いた嚆矢だったのですが、それでもT-72を擁護する見方も強くありました」(同・軍事ジャーナリスト)

 まず指摘されたのが、「操縦していたのがイラク軍の兵士」という問題だ。イラク兵は士気が旺盛、訓練度が高い、というわけではない。

「とはいえ、イラク軍のせいにするには、あまりにも一方的な敗北でした。最終的にロシアの軍需産業は、T-72に問題があることを認めざるを得なくなったのです」(同・軍事ジャーナリスト)

 兵器の世界には“モンキーモデル”という概念がある。兵器は自国の安全を守るために開発、生産される。高性能の兵器を他国に販売すると、自国の防衛が脅かされてしまう。


■T-90で勝負


「そのため、自国で使う兵器の性能からワンランク落とし、価格も安くした輸出専用の兵器を“モンキーモデル”と呼びます。これ自体は当たり前のことです。ロシア側は『湾岸戦争でイラク軍が使用したT-72はモンキーモデルでした』と釈明し、それはある程度、受け入れられました」(同・軍事ジャーナリスト)

 だが、ロシアの軍需産業が、プライドを傷つけられたのは想像に難くない。そこで彼らはT-90で捲土重来を期した。

「湾岸戦争直後に開発されたT90はT72の発展改良型戦車で、T72より高性能を謳っただけでなく、『モンキーモデルは作りません』ということも大きく宣伝されました。輸出を強く意識し、1両あたり約150万ドルと、安価な価格設定ながら高性能を謳う、まさにロシアの軍需産業にとっては“渾身の一作”でした」(同・軍事ジャーナリスト)

 どこの国の軍隊でも、戦車を頻繁に買い換えるということはあまりないという。1両が数億円もするため、コストがかかりすぎてしまうからだ。

「ロシアの軍需産業にとってT-90の発売は、T-72の改造キットを販売するビジネスチャンスでもありました。各国の軍隊に『T-90の購入は難しくても、今あるT-72をT-90の性能に近づける改造が可能です』と売り込むわけです」(同・軍事ジャーナリスト)


■あまりに弱い謎


 先に見たとおり、湾岸戦争でT-72は大敗したが、他国の軍隊が使っていたことから言い逃れが可能だった。

 ところが今回のウクライナ侵攻では、ロシア軍が使っていた戦車が大敗したのだ。もう「モンキーモデルです」の言い訳は不可能だ。

「それにしても、ウクライナ侵攻でロシア軍の戦車が対戦車ミサイルに対してあまりにも脆弱だったのは、不可解としか言いようがありません。なぜ不可解なのかという説明には、対戦車ミサイルがどうやって戦車を破壊するのか、解説する必要があります」(同・軍事ジャーナリスト)

 戦車は大きくて頑丈だ。これを砲撃で壊そうと思えば、相当に巨大な大砲が必要になる。

 ところが対戦車ミサイルは、兵士が携行できるほど小さくて軽い。それでも戦車を破壊することができるのは、直接の爆発で戦車を壊すわけではないからだ。

「ジャベリンなどの対戦車ミサイルは、弾頭が戦車の装甲に当たって爆発すると、弾頭内部の金属がメタルジェットと呼ばれる高温高圧高速な金属塊となり、戦車の装甲板を焼き切り、貫きます」(同・軍事ジャーナリスト)

 装甲板を貫いたメタルジェットは、戦車の車内を焼き尽くし、破壊する。当然、搭乗員は無事では済まない。


■成形炸薬弾


 戦車を動かす兵士の戦闘能力を奪ってしまえば、軍事的な目的は達成したことになる。

「対戦車ミサイルの攻撃を受けた戦車は、内部は酷い有様でも、ある程度なら外観が保たれている場合も珍しくありません。ただ、超高温高圧のメタルジェットが入ってくるのですから、戦車の中にある弾薬庫が誘爆することはあります」(同・軍事ジャーナリスト)

 戦車が弾薬庫に積んでいる砲弾が誘爆すると、戦車の内部で大爆発が起きることになる。こうなると、例えば砲塔部分は跳ね上がってしまう。週刊新潮のグラビアページにも、弾薬庫が誘爆したと思われる戦車の写真が掲載されている。

「特にロシア軍の戦車は床下に弾薬庫があるので、対戦車ロケットの攻撃で誘爆しやすいのです。今回のウクライナ侵攻でも、その“弱点”が改めてクローズアップされています」(同・軍事ジャーナリスト)

 ジャベリンなどの対戦車ミサイルで使われている弾頭は「成形炸薬弾」と呼ばれている。

「ロシア軍の戦車も、この成形炸薬弾に対して防御策を講じていたはずなのです。ところが破壊されたロシア軍の戦車を見ると、一方的にやられてばかりです。これが不可解なのです」(同・軍事ジャーナリスト)


■ニセモノが横行!?


 成形炸薬弾の防御策として代表的なのは「爆発反応装甲」だ。特に、この装備はロシアが研究熱心で、世界トップクラスのクオリティを誇っていた、はずだった。

「簡単に説明すれば、戦車の装甲にわざと爆薬を貼りつけるのです。爆発反応装甲の爆発で、成形炸薬弾の威力を減衰する設計です。アメリカ軍がテストしても、それなりの有効性が確認されました。ウクライ侵攻に使われたT-72やT-90も、本来なら爆発反応装甲を装備しているはずなのです。これがあれば、あんなに簡単にやられるはずはありません」(同・軍事ジャーナリスト)

 世界のメディアがウクライナ現地で撮影した写真や動画、ウクライナ国民がSNSに投稿した写真や動画をチェックすると、T-72やT-90は爆発反応装甲を装着している。

「フェイク動画かもしれませんが、爆発反応装甲の性能を疑ったのか、ウクライナ兵が中身を調べるという動画がネット上にアップされています。鹵獲したロシア製戦車に装着された爆発反応装甲をチェックすると、中身は爆薬ではなく、厚手のシートが畳んで詰め込まれていただけという結果でした。爆発反応装甲自体の性能は、ある程度なら証明されているので、戦費不足など何かの理由で配備が遅れたり、ニセモノが搭載されていたり、という可能性があります」(同・軍事ジャーナリスト)


■ロシアの信用失墜


 他にも、「戦車の配備がおかしい」、「基本的な戦車の運用がされていない」など、ロシア軍の作戦に問題があり、戦車の被害を拡大させたという指摘もある。

 とはいえ、たとえロシア軍の作戦内容に問題があるとしても、もう「ロシア軍の戦車は高性能」と信じる軍事専門家はいなくなったようだ。

「ウクライナ侵攻がどのような結末を迎えるにせよ、ロシアの軍需産業が大打撃を受けるのは間違いないと見ています。ただ、T-72やT-90を購入して困っている国に、ポーランドやチェコといった旧東側諸国の軍需産業が『我々なら、ロシアのようないい加減な改良ではなく、しっかりとメンテナンスを行います』と売り込みをかける可能性はあります。既にセールスが始まっているかもしれません」(同・軍事ジャーナリスト)

 ウクライナもソ連時代に戦車工場を持ち、独立後も戦車の開発生産を続けてきた。T-84やT-72AGなどの戦車は輸出もしている。皮肉なことだが、ウクライナの軍需産業も、ロシア製戦車のメンテナンスは可能だという。

註:契約額はおよそ20億ドル インドがロシア戦車購(※原文ママ)T-90MSの購入へ(スプートニク日本版・2019年4月10日)

デイリー新潮編集部

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