プーチンが国民を騙し続けるための“3条件” ロシア娘と母親、祖母の会話で浮き彫りになる違い

プーチンが国民を騙し続けるための“3条件” ロシア娘と母親、祖母の会話で浮き彫りになる違い

露で情報統制が機能する理由

 いかに情報統制があっても、ネットが発達した現代においてはそう国民を騙し続けられるものではないはず。それなのになぜロシア国民はプーチンを支持するのか。別の言い方をすれば、なぜ情報統制が機能するのか。この問いへの答えとして、公文書研究の第一人者である有馬哲夫氏が「洗脳」が成立するメカニズムを読み解きながら解説してくれた。以下、有馬氏の特別寄稿である。

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■プーチンを信じ続ける人たち


 なぜ、ロシア人はウクライナ侵略報道に接しても、プーチンを支持するのか。

 ウクライナ側が流す人々の悲しみ、苦しむ映像、とりわけ傷ついた子供の映像、破壊された住宅や打ち捨てられた戦車の残骸の映像をみて、胸がかきむしられる思いをする。なぜ、いったいこの人たちになんの罪があるのだろう、なぜこんなことがゆるされるのだろう、と思う。

 悪鬼のようなプーチン大統領を何とかしたいと願う。

 良識ある人であればそのように考えることは自然であろう。

 しかし、ロシア側でもさぞかし非難の声が湧きあがり、プーチン打倒の動きが起こっているかと思うと、その期待は裏切られる。なるほど、西側メディアは、ロシア国内で「戦争反対」を声に出したり、プラカードに書いたりして抗議する一部の人々の姿を映すが、彼ら・彼女らは例外であって、圧倒的大多数は大統領を支持し、ロシアの大義のために戦争をしていて、悪いのは西側だと思い込んでいる。

 なぜこのようなことが起こるのか。日本のマスコミはこう説明する。

「なぜって、ロシアを正当化する報道がされていて、ロシア人はみなそれを信じているから」

 なるほどその通りなのだが、分析してみると、話はそれほど簡単ではない。それをコミュニケーション理論で説明してみよう。

 象徴的なのは、あるニュース番組が紹介した、一人の20代くらいのロシア女性とその母親と祖母の間の会話だ。女性は母にロシア軍がウクライナで破壊と残虐行為を行っていると告げる。すると母は、半信半疑の顔をする。「ロシア軍はそんなことはしない。でも、たしかに様子がおかしい」、これに対して祖母は「ロシア軍は絶対そんなことはしない。西側は嘘をいっている。騙されてはいけない」。


■接するメディアの違い


 なぜ、このような違いがでてくるのだろうか。まず、注目すべきは接触しているメディアだ。

 若い女性は主にSNSやインターネットから情報を得ている。これらのデジタルメディアは、つながりにくくはなっているが、西側の情報を流している。さまざまな迂回路があるからだ。だから、西側とほぼ同じ情報にアクセスできる。

 これに対して、彼女の祖母は、主にプーチンが言論統制しているテレビから情報を得ている。つまり、ロシア軍は東ウクライナの親ロシア系住民のナチス主義者による虐殺を止めるために出動したのであって、都市の破壊とか住民の殺害とかはしていない。それらはナチス主義者とウクライナ軍の仕業だ。ロシア軍はむしろ住民に食料を与えたり、避難させたりしている。

 さて、母はどうか。おそらく彼女の主な情報源はテレビだろうが、多少はSNSを使う。だから、プーチンを信じつつも、「あるいは」という疑念を持つのだろう。

 つまり、接触しているメディアによって、ウクライナ侵略報道の情報の中身が大きく変わり態度も変わるということだ。

 では、祖母や母にSNSを使わせたら変わるか。多分変わらないだろう。テレビのせいかもしれないから、SNSだけを使わせて、テレビを見せないようにしたらどうか。おそらく母はプーチンを疑い出すかもしれない。だが、祖母は信じ続けるだろう。

■GHQのプログラム


 なぜ、そういえるのかコミュニケーション理論で説明しよう。実は、これは拙著『日本人はなぜ自虐的になったのか』で、日本人が戦後なぜ自虐的になったのか、なぜ占領軍(GHQ)の実施したウォーギルト・インフォメーション・プログラム(WGIP)のマインドセット(先の戦争は悪の戦争で、日本人はそれに責任があるという)から抜け出せないのかを説明するために使用したものだ。

 ポール・ラザースフェルドというアメリカのコミュニケーション学者によれば、人を洗脳できるのは次の3つの条件がそろったときだという。

1.メディアの独占
2.チャネリング
3.制度化

 1に関して言えば、ソ連時代、メディアは完全に政府に独占され、権力にとって都合のいい情報しか流れていなかった。

 2は情報理解の回路ができることをいう。つまり、柔らかい土に水を流すと溝ができ、そのあと何度水を流しても同じ溝を流れていく。このように最初にある考えを植え付けると、他の考えを受け付けにくくなる。

 3は主に教育である。つまり、教育機関などで、長期間、制度的にある考えを教え込まれると、その考えから抜け出せなくなる。

 GHQは戦後日本に対してこの条件を満たす政策を次々と打ち出した。戦後民主主義が根付くのに貢献したともいえるが、副作用として「戦前の日本は絶対悪」といった固定観念を植えつけることとなり、そこから派生した「平和ボケ」的な思考も定着させることにつながった。今回の戦争でウクライナの自衛のための戦いと、ロシアの侵略戦争との区別ができない人は「戦争は全部悪い」という思い込みがあるからで、その起源もここにある。


■洗脳はいつ解けるのか


 先ほどのロシア人の祖母は上述の条件が完全にそろったソ連時代に子供・青春期を送っている。母は、ややこれが崩れたソ連崩壊期に多感な時期を送っている。娘は崩壊後で、ソ連時代の呪縛から解き放たれている。

 つまり、ウクライナ侵略報道をSNSで得るか、テレビで得るかは大きな違いだが、それ以上にソ連時代の洗脳からどれだけ抜け出せているかが決定的な違いになっている。

 そうすると、どのような結論が導きだされるのだろう。ロシア人のうち中年以上の年代はプーチンと彼のしていることを支持し続けるだろう。若者は何かしらの事実を知っているが、プーチンに逆らったところで、打倒できるわけでもなく、かえって累が及ぶことを恐れて黙っているだろう。全体としてロシア国民はプーチンと彼のしていることを支持し続けるということだ。中国と違って選挙はあるが、前述の基本的構造がある限り、ロシア国民は変わらないだろう。

 ただし、プーチンが打倒されるといった事態が起き、洗脳の3つの条件がそろわなくなったとき、たとえばメディアの独占や制度化が崩れたときは、変わる可能性はある。

 こうしたロシアの状況を批判したり、遅れていると嗤ったりするのは簡単だ。しかし、前述の通り、日本においてもGHQによって一種の洗脳が行われ、その影響はいまだに残っていることは忘れないほうがいいだろう。今回のロシアの侵略行為を見てなお、「降伏すれば命だけは助かるかもしれない」といった根拠なき楽観論を述べる向きは、そうした影響下にあると見ていいのかもしれない。

有馬哲夫(ありまてつお)
1953(昭和28)年生まれ。早稲田大学社会科学総合学術院教授(公文書研究)。早稲田大学第一文学部卒業。東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得。2016年オックスフォード大学客員教授。著書に『原発・正力・CIA』『歴史問題の正解』など。

デイリー新潮編集部

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