プーチンを震えあがらせる“高機動ロケット砲システム”「ハイマース」本当の実力

プーチンを震えあがらせる“高機動ロケット砲システム”「ハイマース」本当の実力

露が恐れるハイマースの実力

プーチンを震えあがらせる“高機動ロケット砲システム”「ハイマース」本当の実力

HIMARS(U.S. Army photo, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で)

 朝日新聞は6月7日の朝刊1面に「プーチン氏、武器供給に警告 攻撃対象の拡大言及」の記事を掲載した。

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 アメリカはウクライナに対し、高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」を供与すると明らかにしている。

 朝日新聞の記事は、ロシア国営テレビがウラジーミル・プーチン大統領(69)にインタビューした内容を報じたものだ。担当記者が言う。

「プーチン大統領はHIMARSについて『何も新しいものではない』と、ロシア軍の脅威ではないと一蹴しました。その上で、最大射程が300キロを超えるというHIMARS用の長距離ミサイルも供与されたなら、『我々がまだ攻撃していない対象を攻撃するため、破壊手段を使うだろう』とアメリカに警告を発したのです」

 プーチン大統領の発言は一貫して強気だった。しかし裏を返せば、それだけHIMARSを恐れているとも言える。一体、どんなロケット砲なのか、軍事ジャーナリストに訊いた。

「HIMARSのことを知るためには、多連装ロケットシステム『MLRS』の歴史を振り返るのが一番でしょう。冷戦下、北大西洋条約機構(NATO)軍はワルシャワ条約機構(WTO)軍に対し、戦車で劣勢にあると考えられていました。もしWTO軍の戦車部隊が多数、NATO諸国に侵攻してきた場合、一気に蹂躙されてしまうかもしれない。そこで大量の戦車を集中的に撃破するため、80年代にMLRSが開発されました」


■「シン・ゴジラ」にも登場


 戦車を遠くから攻撃できる兵器としては、榴弾(りゅうだん)砲も有名だ。NATO軍はウクライナ軍に、多くの榴弾砲を供与している。ロシア軍の戦車が多数、撃破されたという報道に接した方も多いだろう。

「NATO軍の155ミリ榴弾砲なら40キロ先の目標を砲撃できます。一方MLRSからは無誘導のロケット弾の他に、ATACMS(陸軍戦術ミサイルシステム)という、射程300キロの精密誘導ミサイルを発射できます。弾頭にはBAT(対装甲子爆弾)が複数詰め込まれ、この子爆弾も地上の装甲車両を認識しピンポイントで車両を破壊します。もちろん、ATACMSはHIMARSからも発射できます」(同・軍事ジャーナリスト)

 つまり“安全地帯”から、敵の戦車や装甲車に甚大な被害を与えるのが、MLRSやHIMARSの目的というわけだ。

 どれくらい離れた場所から発射されるのか、よく理解できる日本映画がある。2016年に公開された「シン・ゴジラ」[庵野秀明総監督(62)、東宝]だ。

「ゴジラが神奈川県川崎市の武蔵小杉付近に現れると、自衛隊はMLRSでロケットを静岡県御殿場市から発射、ゴジラに命中させるシーンがあります。しかし、実はこれでも直線距離で約70キロに過ぎません。武蔵小杉から300キロなら、三重県の四日市市あたりが約280キロです」


■軽量のHIMARS


 三重県から神奈川県の敵軍をピンポイント攻撃できるというわけだ。これだけでも性能の高さがよく分かる。

 MLRSの威力を実戦の戦果として世界に知らしめたのは、1991年の湾岸戦争だったという。

「アメリカ軍とイギリス軍が約200台のMLRSを投入し、遠距離からロケットを一斉発射しました。降り注いだ子爆弾の威力は凄まじく、イラク軍は『スチール・レイン(鋼鉄の雨)』と呼んで恐れたというエピソードが残されています。またMLRSの威力に脅え、かなりのイラク軍兵士が投降したとも言われています」(同・軍事ジャーナリスト)

 ところが、MLRSには欠点が1つある。自走式とはいえ重量が24・7トンもあり、空輸にはC17グローブマスターなどの大型輸送機が必要なのだ。

「そこで、約13・7トンと軽量化したHIMARSを開発したのです。小回りのきくC130輸送機で世界中どこへでも緊急展開が可能です。その利点を活かすため、アメリカ軍は海兵隊など緊急展開する必要のある部隊に配備しています。激戦が続くウクライナの場合も同じで、MLRSよりHIMARSのほうが展開しやすいでしょう」(同・軍事ジャーナリスト)


■300キロが80キロ


 アメリカがHIMARSの供与を決め、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領(44)も安堵しているに違いない──と思ってしまうが、必ずしもそうではないという。

「アメリカは射程80キロのロケット弾しか供与しないと決めました。300キロの戦術ミサイルだとロシア領内の攻撃も容易になるため、プーチン大統領が強く反発してしまう。あくまでも東部戦線に限定して使わせる、とロシアにメッセージを送った格好です。300キロが80キロになった影響は、非常に大きいと言えます」(同・軍事ジャーナリスト)

 ただ、最初から「80キロです」と、正直に言うべきだったのかという疑問は残る。射程を隠してロシアを疑心暗鬼に陥らせる手はあったかもしれない。

 いずれにしてもウクライナが必要としている兵器は届くが、最高の性能は発揮できない、ということになる。

「ゼレンスキー大統領の胸中は複雑なのではないでしょうか。ロシア軍は東部戦線で長距離ロケット弾を使って猛攻撃を仕掛けており、ウクライナ軍は苦戦しています。そのためロシア軍のロケット弾も届かない“絶対的な安全地帯”から狙い撃ちしようと、HIMARSの供与を求めていたからです」(同・軍事ジャーナリスト)


■ロシア軍の猛攻撃


 ロイター(電子・日本語版)は6月9日、「ロシア軍、要衝セベロドネツクの大部分掌握 ウクライナ軍の抵抗及ばず」の記事を配信し、YAHOO!ニュースのトピックスに転載された。

《ウクライナ東部ルガンスク州のガイダイ知事は8日、要衝セベロドネツクの大部分をロシア軍が押さえ、抵抗を続けてきたウクライナ軍が市周辺に撤退したと明らかにした。ウクライナ側は先週の反撃で市の一部を奪還していたが、再びロシア軍の手に落ちた》

 東部戦線でウクライナ軍が苦戦している理由の1つに、ロシア製の多連装ロケット砲「BM-30」の威力があるという。

「BM-30が搭載するロケット弾は、射程が90〜70キロあります。NATOの155ミリ榴弾砲の射程は40キロですから、現在はロシア軍のほうが遠距離から攻撃しているわけです。更に榴弾砲は、1発撃つと反撃を避けるためその場から移動する必要があります。一方のBM-30は、12発のロケット弾を38秒で撃ち尽くすことが可能です。火力の違いは明白と言わざるを得ません」(同・軍事ジャーナリスト)


■BM-30の破壊力


 BM-30はローテク兵器のため、めったやたらにロケットを撃つことしかできない。だが、今の戦況には有利に働いているという。

「なぜMLRSやHIMARSはハイテク兵器で、ピンポイント攻撃が可能なのかと言えば、誤射を少なくするためです。間違って民間人を攻撃してしまうと、国際社会はアメリカ軍を強く非難します。“正義”というイメージを重視するアメリカ軍にとっては、できる限り誤射は避けたいわけです」(同・軍事ジャーナリスト)

 だが、今のウクライナ情勢で“誤射”を防ぐ必要は、どれだけあるのか。MLRSやHIMARSはハイテク兵器だけあり、操作方法は複雑で、習熟には少なくとも数週間が必要だという。

「結局、HIMARSをウクライナに届けることができても、すぐに使えるわけではありません」(同・軍事ジャーナリスト)

 一方のロシア軍は、誤射など全く気にしない。国際社会から非難されても、もはや開き直って無差別攻撃を行っている。

 BM-30を操作するためには、研修など必要ない。民間人の犠牲も無視し、ひたすらロケット弾を猛射して破壊し尽くす。倫理的には大問題なのだが、相当な戦果を挙げているのも事実だろう。


■“ゲームチェンジャー”ではない!?


 そもそもウクライナ軍は兵力で劣勢だ。兵士1人の戦死が与えるダメージは、ロシア軍より遥かに大きい。ロシア軍の無差別攻撃にウクライナ軍が苦しめられている理由の1つだと言える。

「ウクライナ軍の限りある兵員から担当兵を割いて研修を受けさせ、実戦配備が可能になったHIMARSは、これ以上ないというほど貴重な戦力です。しかし、射程距離80キロに制限され、90〜70キロのBM-30と向かい合わなければなりません。おまけに安全地帯で使うことが前提条件なので、防御力も弱いのです。ウクライナ軍が最前線の配備を躊躇したとしても不思議ではないくらいでしょう」(同・軍事ジャーナリスト)

 ネット上では「HIMARSが最前線に投入されれば、ロシア軍を撃退できる」という投稿も目立つが、あまりにも楽観的すぎるようだ。

「ウクライナ軍も過大な期待はせず、何とかHIMARSでロシア軍を押し戻そうと考えているのかもしれません。実際、クラスター弾の威力は期待できます。ロシアもウクライナもクラスター弾の禁止条約は批准していません。ただ、HIMARSでも戦況を一変させるだけの戦果は得られないでしょう」(同・軍事ジャーナリスト)

デイリー新潮編集部

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