ウクライナ軍が神風ドローンでザポリージャ原子力発電所を攻撃 いくらなんでも危険すぎる

ウクライナ軍が神風ドローンでザポリージャ原子力発電所を攻撃 いくらなんでも危険すぎる

ゼレンスキー大統領(自身のFacebookより)

 核拡散防止条約(NPT)再検討会議が8月1日、米ニューヨークの国連本部で7年ぶりに開催された。約190カ国・地域の政府代表が核軍縮や核不拡散の道筋を話し合い、最終文書を採択できるかどうかが最大の焦点だ。ウクライナに侵攻したロシアが核兵器による威嚇を行ったことで「核戦争が起こるのではないか」との危機感が急速に高まっている現状にかんがみ、岸田文雄首相は日本の総理としては初めて会議に出席し、「核なき世界」に向けた5本柱の行動計画を提案した。

 ロシアがウクライナに侵攻してから5ヶ月が経過したが、戦線は膠着状態に陥り、泥沼の様相を呈し始めている。両軍の攻撃が激化する中、日本ではあまり注目されていないが、「核」を巡って極めて深刻な事案が発生している。

 7月20日、ウクライナ軍は「自国の攻撃型ドローンがロシア軍によって占拠されたザポリージャ原子力発電所を攻撃した」と発表した。ウクライナ軍によれば、攻撃ドローンで3人のロシア兵が殺害され、12人のロシア兵が負傷した。攻撃を受けて爆発する施設や逃げ惑うロシア兵の様子なども公開されている。

 使用された攻撃型ドローンの種類は明らかになっていないが、「神風ドローン」の可能性が高いと見られている。神風ドローンはその名のとおり、体当たりして認識した標的を破壊するドローンだ。ウクライナ軍は当初から神風ドローンなどを戦場でフル活用しており、その多くは西側諸国から供与されている。

 ウクライナ軍が「神風ドローンで原子力発電所を攻撃する」という極めて危険な行為に及んだのには理由がある。ロシア軍がザポリージャ原子力発電所にミサイルを配備し、そこから近隣地域に砲撃を激化させているからだ。

 ウクライナ南部に位置するザポリージャ原子力発電所は欧州最大規模を誇る(原子炉を6基保有し、1基が稼働中だった)。3月4日にロシア軍に制圧された後、約600人のロシア兵が配備され、多くの重火器が持ち込まれたが、ロシア側には「ウクライナ軍が損傷を与えることを恐れ、反撃を控えるだろう」と考え、原子力発電所を要塞化した可能性が指摘されている。原子力発電所を「盾」にして一方的に攻撃を仕掛けるというロシア軍の戦術に対し、業を煮やしたウクライナ軍がドローンによるピンポイント攻撃を実施したというわけだ。

 ロシア軍がザポリージャ原子力発電所を占拠したことで国際社会が大騒ぎになったことは記憶に新しい。戦闘の際に原子力発電所の研修施設に火災が発生したからだ。国際人道法(1949年ジュネーブ条約第1追加議定書)で攻撃が禁止されている「危険な威力を内蔵する施設(原子力発電所など)」が攻撃目標になったのだ。

 過去を遡れば、建設中の原子炉が軍事攻撃を受けた事案はいくつかあった。イスラエル軍によるイラクのオシラク原子炉空爆(1981年6月)やテロリストによるフランスの高速増殖炉への対戦車ロケット攻撃(1982年1月)などだが、運転中の商業用原子力発電所が軍による地上攻撃にさらされたのは初めてだった。

 ロシア軍が3月に占拠して以降、ザポリージャ原子力発電所の危機は小康状態を保ってきたが、再び「ドローン攻撃」による危険にさらされた形だ。


■原子力事故が勃発すれば…


 ザポリージャ原子力発電所で稼働しているのは旧ソ連型の加圧水型原子炉だ。加圧水型は現在稼働している原子炉の主流を成す軽水炉の1つのタイプだ。ザポリージャ原子力発電所の建設が開始されたのは1980年、旧ソ連型とはいえ欧米の加圧水型原子炉とほぼ同様の安全基準をクリアしているとされている。

 軽水炉の本体は航空機が衝突してもびくともしないように設計されていることから、ウクライナ軍は「神風ドローンで標的をピンポイント攻撃すれば、放射能の流出などの深刻な事態を招くことなく、ロシア軍を無力化できる」と考えているようだが、油断は禁物だ。軽水炉には炉心の周辺で生じたトラブルを適切に処理しないと炉心溶融が起きるという弱点がある。東京電力の福島原子力発電所の重大事故も炉心本体の問題ではなく、外部電源の喪失により引き起こされたものだった。

 ロシア軍によれば、その後もウクライナ軍はザポリージャ原子力発電所への攻撃を続けており、予断を許さない状況が続いている。

 想像したくないことだが、万が一、ウクライナで戦闘が原因で重大な原子力事故が勃発するような事態となれば、その悪影響は計り知れない。

 国際エネルギー機関(IEA)は6月30日「2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標を達成するためには世界の原子力発電の設備容量を現在の2倍にする必要がある」との報告書を公表した。これを実現するためには原子力への投資額を3倍超に引き上げる必要があるという。

 欧米諸国は一斉に「原子力シフト」に舵を切り始めており、日本政府も「今年の冬の電力を確保するため原子力発電所を最大9基稼働させる」との方針を示している。

 だが、ウクライナで重大な原子力事故が発生すれば、世界の人々は「原子力発電所は深刻な放射能漏れを起こす危険性がある」ことを改めて痛感することになり、原子力推進にとって「とてつもない逆風」となってしまう可能性が高い。

 現下のエネルギー危機は1970年代の石油危機時よりも深刻だ。危機を乗り切るための「切り札」である原子力を着実に推進するため、国際社会はウクライナ・ロシア両軍に原子力発電所を巡る戦闘行為を直ちに停止するよう求めるべきではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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