アメリカとロシアは泥仕合…誰がノルドストリームを破壊したのか

アメリカとロシアは泥仕合…誰がノルドストリームを破壊したのか

バイデン大統領、プーチン大統領

 ロシア産天然ガスをバルト海経由で欧州に輸送する海底パイプライン「ノルドストリーム」の運営会社(ロシア国営ガスプロムの子会社)は9月27日「パイプラインに前例のない損傷が生じ、復旧の見通しが立たなくなっている」ことを明らかにした。

 損傷はノルドストリーム1と2で4カ所確認されている。

 スウェーデン国立地震学センターは前日の26日、ノルドストリーム近くで2度の大規模な振動を観測している。

 ロシアは6月以降、ノルドストリーム1を経由したガス供給量を大幅に削減し、タービン設備の保守作業などを理由に8月末から供給を完全に停止している。

 2021年秋に完成したノルドストリーム2については、ドイツ政府が2月下旬、ロシアのウクライナ侵攻を理由に稼働開始を見送っている。

 このため、ガス漏れ事故により欧州へのガス供給に影響は出ていないが、この報道を受け、欧州市場のガス価格は再び上昇している。

 ガス漏れの原因がわかっていないのにもかかわらず、フォンデアライエン欧州委員長は9月27日「欧州のエネルギーインフラに対する意図的な混乱は容認できず、可能な限り強力に対応する」と暗にロシアを非難する声明を出している。

 スウェーデン、デンマーク両政府は9月30日「パイプラインの損傷は爆薬数百キログラム相当の爆発力を持つ水中爆発によって意図的に引き起こされた」との見方を示した。

 ウクライナに侵攻したロシアに対して西側諸国が極めて厳しい制裁を科し、一方ロシアから欧州へのガス供給が大幅に削減されるなど、西側諸国とロシアとの間の緊張が冷戦終了以降、最悪の状態となっている。

 このような状況下で原因不明のガス漏れ事故が起きれば、国家が関与した破壊工作の疑いが浮上するのは当然の流れだ。


■ロシアは「最も得をするのは米国」


 西側諸国では「ロシアが関与した」との主張が日増しに高まっている。情報機関当局は「冬場が近づく中でガス供給の途絶で電気代が上がり、欧州諸国が背負う負担が大きくなるため、ロシアにとって今回のようなパイプライン破壊工作は相応の価値がある」と指摘している。「ロシアは自らが権益を持つノルドストリームのパイプラインを破壊してでも十分に割が合う」との見立てだ。

 これに対し、ロシアは「当然に予想されていた主張だが、愚かだ」と一蹴している。

「ガスを武器として利用している」と西側諸国から批判されるロシアだが、ノルドストリーム1の稼働再開に向けての努力を続けてきた。ノルドストリーム2についてもプーチン大統領は「このパイプラインが稼働すれば欧州のガス不足は解消する」と重ねて強調してきた経緯がある。欧州へのガス供給が停止したものの、輸送再開に向けて2本のパイプラインにガスが充填されていたことから今回のガス漏れ事故が生じたことは事実だ。

 ロシアは「今回のガス漏れ事故で最も得をするのは米国だ」と指摘する。

 欧州では米国からのガス輸入量がロシアからの輸入量を上回っており、ノルドストリームの稼働停止が長期化すれば、今後ますます欧州の米国産ガスへの依存が強まることは間違いないからだ。

 ロシアはさらに「米国が関与した」との説も主張し始めている。

 ロシア対外情報局のナルイシキン長官は9月30日「ノルドストリームの爆発は国際テロであり、この犯罪に西側諸国が関与した形跡があることを示す資料がある。西側諸国は真の実行犯をあらゆる手段で隠蔽しようとしている」と述べている。

 国連安全保障理事会は9月30日、ノルドストリームのガス漏れについて協議する公開会合を開催した。ロシアが米国関与説を流布していることに対し、米国代表は「ロシアが陰謀論や偽情報を広めようとしている」と厳しく非難した。


■事故の原因、別に?


 このように、米ロの「泥仕合」は激しくなるばかりだが、「今回の事故の原因は別にあるのではないか」と筆者は考えている。

 注目しているのは「バルト海の海底ガスパイプライン」だ。

 このパイプラインの目的はノルウェーで産出される天然ガスをデンマークを経由してポーランド北部に輸送することだ。パイプラインの完成によりノルウェー産ガスの欧州向け供給量が増加することはないが、仕向地であるポーランドにとっては死活的に重要だ。

 ポーランドは天然ガスの国内需要の3分の2をロシアに依存していたが、今年4月からロシアからのガス輸入が停止していた。窮地に立たされたポーランドだが、パイプライン完成で年間消費量の15%に相当するガスをノルウェーから確保できることになる。

 パイプラインは2020年後半から建設がスタートしたが、ガス漏れ事故が発覚した9月27日に早くも工事が完成している(10月1日からガス供給を開始)。

 気になるのはこのパイプラインが今回ガス漏れの発生した地域付近でノルドストリームと交差していることだ。突貫工事は不慮の事故を生みやすい。パイプライン建設企業がノルドストリームのパイプラインに大きな傷をつけてしまった可能性は排除できない。

 ロシアが「問題解決には当事者間の対話や迅速な意思疎通が必要だが、こうした営みはまったく行われていない」と指摘しているように、西側諸国は事故調査をロシアと協力して実施する意向はないようだ。原因究明はあらゆる可能性を想定して行わなければならないが、このままでは「最初から結論ありき」の報告書が出てくるのがオチだ。不毛な対立が残るだけで、真相は永遠に不明のままになってしまうのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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