“きれいなトランプ”が登場 主観が出ちゃう「翻訳」が好き(中川淳一郎)

 外国人の発言がどんな日本語に訳されるのかを見るのが好きです。何しろそこには訳者の主観が入るから。トランプ米大統領がイランについてツイートした時、ニュースサイトのビジネスインサイダー ジャパンはこう訳しました。

〈もしイランが戦いを望んでいるなら、それはイランの正式な終わりになるだろう。二度とアメリカを脅すな!〉

 もしも、これが前任のオバマ氏だったらどうなったか。「脅すな!」のような強い言葉を同氏が使うとは思えませんが、こう訳されたと思います。

〈もしイランが戦いを望むならば、それはイランの正式な終わりになることでしょう。二度とアメリカを脅さないでいただきたい!〉

 キャラづくりは、テレビの吹き替えでも発生します。オバマ氏はジェントルマン風の声優が担当し、トランプ氏はダミ声でドスの利いた声優が担当するという違いもあります。

 スポーツの場合は、一人称が選手によって変わるような気がします。34年前に読んだ記事には「『オレはカネのためならばカラスでも食って見せる(何を言われようが構わない)ぜ』と語った○○(選手名)は今ではフォア・ザ・チームの精神に徹するようになった」といった記述がありました。銭ゲバ風だったり素行が悪かったりケンカっ早い選手は「オレ・俺」になり、紳士的な選手は「私」になるのです。勝手に分類してみます。

【オレ・俺】クロマティ、ガルベス、バレンティン、トマソン、ブライアント、ホーナー、ロマーリオ

【私】デストラーデ、エルドレッド、マートン、リー兄弟、ペタジーニ、宣銅烈、ジーコ

 この場合も、一人称だけでなく文体まで変わってしまいます。たとえば、ヒーローインタビューでこう聞かれた場合。

――ケガから復帰後、初のホームランおめでとうございます。

「私は長期間の離脱で悔しい思いをしました。でもこうして復活できたので、これからもホームランをお見せしたいです」

「オレは長い間戦列から離れて悔しかった。だが、こうして復活できたし、これからもホームランをガンガン見せてやるぜ」

「でも」が「だが」になったり、文末の「したいです」が「やるぜ」に変わったりする。完全に訳者の主観が入っているわけですが、最近おかしかったのが冒頭のトランプ氏が国賓として招待された宮中晩餐会について報じた「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)です。トランプ氏が陛下と話した内容がパネルになっていたのですが、「陛下は英語がお上手ですね。どちらで勉強されたのですか」とあり、上皇・上皇后について「いかがお過ごしでしょうか」と聞いた、というふうに紹介されました。

 これ、全然トランプ氏っぽくないですよね。相手が皇族の方々以外だったら「あなたは英語が上手だな。どこで勉強したんだい?」で「彼らの調子はどうだい?」となっていただろうに、妙に丁寧なんですよ。

『ドラえもん』に、「きれいなジャイアン」が登場する回がありますが、これがイケメンで品行方正なんです。今回は滅多にない「きれいなトランプ」を見られて満足しました。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

「週刊新潮」2019年6月13日号 掲載

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