安倍外交の深謀遠慮 G20“夕食会”の席次から読み取れる「対中包囲網」

 最近の安倍外交の特徴は、リスクを恐れずに積極的に仲介役を買って出ていることだろう。先週私は、G20を控えた日本の外交政治の動きについて話してほしいということで、欧州各国の外交官との昼餐に招かれたが、驚いたのは最初に設定されたトピックがイラン情勢だったことだ。こうした席では日米関係から始めるのが順当といえば順当だが、中東についてまず話そうという先方からのリクエストは、イラン情勢の緊迫化があるとはいえ、安倍晋三総理の仲介外交が存在感を高めていることの証だといえよう。

 昨年のカナダ・シャルルボワでのG7サミットでは、一枚の写真から仲介者安倍総理がクローズアップされた。ドイツのメルケル首相が、腕組みするトランプ大統領に対して机越しに詰め寄る場面だ。国際秩序が不安定化する中で、二人の間で写真に収まった安倍総理こそが橋渡しが可能であるという言説が広まった。

 そして今回のG20では、デジタル経済に関する首脳特別イベントでの一枚が、仲介者としての安倍の面目躍如となった。

 サミットは壮麗な宮殿で開催されることが多い。首脳としての威儀を正す意味があろう。最初にG7(当時はG6)が開かれたのはフランス・ランブイエ城だったし、5月に令和最初の国賓としてトランプ大統領が東京を訪れた際には、迎賓館赤坂離宮で日米首脳会談が開かれた。トランプは天皇陛下に対して、ホワイトハウスは皇居宮殿に見劣りすると謙遜してみせた。なお旧共産主義国のロシアでも、プーチン大統領が陣取るのはクレムリン宮殿だ。

 今回のG20の開催場所であるインテックス大阪は、宮殿とは似ても似つかない場所だった。一部の首脳はその事務的な雰囲気に驚いたかもしれない。会場に事前に下見に行ったというある国の外交官は、何もないスペースだったのでサミット当日の様子を想像するのが難しかったと私に話していた。一歩足を踏み入れただけでその雰囲気に圧倒される宮殿とは、まさにかけ離れた場所だったのだ。ところがその事務的な場所だからこそ生まれたのが、あのぎゅうぎゅう詰めの”奇跡の一枚”だったともいえよう。米中の首脳が安倍総理を挟んであれだけの近距離に着席した絵は、空間をふんだんに使って建てられている宮殿では決して生まれなかっただろう。

 大阪城天守閣を望む大阪迎賓館に、夕食会のために集まった各国首脳の席次にも注目しなければならない。安倍総理は、トランプ米大統領とプーチン大統領を両脇に従え、食事を進めた。米露関係は冷戦後最悪といわれるレベルにあるが、安倍総理はトランプ大統領だけでなくプーチン大統領とも良い関係を築いている。大阪迎賓館でも安倍総理は、仲介者としての顔を覗かせたというわけだ。

 安倍総理はプーチン大統領と逆サイドに、トランプ大統領、モディ印首相、モリソン豪首相の席を並べてみせた。しかもトランプ大統領の前は習近平中国国家主席という席次だ。中国を念頭に置いた日米印豪4か国による連携は、安全保障ダイヤモンド構想(地球儀上で4か国を線で結ぶとダイヤモンドが浮かび上る)ともよばれ、第一次政権以来の安倍総理の悲願だった。それがいま大きく日の目を見ようとしているのを象徴するシーンだった。


■日米印サミットという成果


 今回のサミットでの語られざる成果は、日米印サミットだ。椅子を馬蹄形(外務省ではU字の配席をこう呼ぶ)に並べて3人の首脳は親密に語り合った。昨年11月、アルゼンチン・ブエノスアイレスでのG20で初めて開催されたが、国境紛争を抱える中国への気兼ねが強かったインドを3か国の枠組みに大きく取り込んだことは、それだけで意義深い。

 覇権主義的な一帯一路を唱える中国に対して、日米は自由で開かれたインド太平洋戦略を提唱している。安倍総理が最初にぶち上げたこの構想に、トランプ大統領が後追いで加わった。日本発の戦略を米国がフォローするという流れは、戦後日本外交において初めてではなかっただろうか。そして日米の不可欠なパートナーこそがインドと豪州というわけだ。

 昨年10月、自らの別荘(山梨県鳴沢村)に外国首脳として初めて招待するほどに、安倍総理はモディ首相との信頼関係を強めている。今年5月の総選挙でモディ首相が大勝を収めて国内基盤を安定させたことも、大胆な外交政策を可能としている。

 日米印はマラバールという海上での共同訓練も実施している。共通の懸念は中国の海洋進出だ。中国が急速な軍事化を進める南シナ海はもちろん、日本は尖閣の浮かぶ東シナ海、インドは自らの庭先というべきインド洋での中国の動きに強い懸念を抱いている。そして米国にとって制海権は自らが握る覇権の根幹であり、中国海軍の動向に神経を尖らせているというわけだ。

 軌道に乗り始めた日米印サミットと比べると、日米豪印の政府間対話はいまのところ高級事務レベルまでで、直近では本年5月にタイ・バンコクで開かれている。サミットまでにはまだ閣僚級というステップもあるし、一足飛びというわけにはいかないだろうが、今回の夕食会の席次はひょっとしたら大きな突破口になるかもしれない。そうなれば安倍総理の深慮遠謀もここに極まれりといえよう。宴の席が時として社交以上の意味を持つ。それが外交の世界というものだ。


■“末席”に見る日韓関係


 最後に韓国に少しだけ触れておこう。安倍総理は日韓首脳会談を見送ったが、これは韓国に対して極めて強いメッセージとなった。ホスト国の首脳は、できるだけ多くの参加国と会談を設定しようとするのが通常だ。日本はアフリカや太平洋の島国とそれぞれ定期的にサミットを開催している(TICADと太平洋・島サミット)が、日本の総理はマラソン会談 ともいわれる短時間の会談を立て続けにこなすことで、大勢の大統領や首相と面会しようとする。そうした配慮を韓国に示さなかったのは、韓国への怒りを最大限に表したといえよう。

 大阪城をバックにした集合写真では文在寅大統領が一列目にいるではないか、それほどに冷遇されていないではないかと思われた読者もおられるかもしれない。だがその背後にあるロジックを知れば、仕方がないと思っていただけるだろう。

 サミットの集合写真の立ち位置には、就任順とは別に、元首優先という暗黙のルールがある。米国、フランス、ロシア、ブラジルといった国々からは、元首でありかつ政治の実権を握る大統領らが参加するのに対して、ドイツ、イタリア、インドといった国々からは、元首として儀礼的な役割を担う大統領ではなく政治の中心たる首相が参加している。日本や英国といった立憲君主国からも後者と同様に首相が出席している。韓国大統領は元首なので、集合写真の際にはどうしても優遇されてしまうということだ。ただ元首の中ではほぼ末席が宛がわれ、ここにも最悪の日韓関係が反映される格好となった。

 たかが席次されど席次。そこには多くの外交的メッセージが隠されている。

村上政俊(むらかみ・まさとし)
1983年大阪市生まれ。東京大学法学部卒。外務省に入り、国際情報統括官組織、在中国、在英国大使館外交官補を経て、12年から14年まで衆議院議員。現在は同志社大学、皇學館大学で講師を務める。

週刊新潮WEB取材班

2019年7月1日 掲載

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