軍事パレードも射撃も! 英国名門校では軍事をこう教えている

■中止に追い込まれたもう一つの展示


「あいちトリエンナーレ」ほどには話題にも問題にもされていないが、先月末、神戸市内の百貨店ではイベントでの自衛隊車両の展示が、一部団体の抗議を理由に中止に追い込まれるという事態が起きた。抗議したのは自衛隊を忌み嫌い、「子ども」らへの悪影響を主張する婦人団体だという。

 軍事にアレルギー反応を示すのは、こうした団体だけではない。日本学術会議もまた、常に軍事関連の研究には「懸念」を示してきている。

 しかしながら、こうした姿勢はかなり日本独自のものだと言っていいだろう。お隣、韓国に限らず徴兵制を採用している国は少なくない。言うまでもなく「子ども」に軍事を教えるどころか、一時的に軍人になってもらうシステムだ。

 たとえ徴兵制ではなくても、軍事、あるいは安全保障を教育の中で重要な位置に置くのは世界基準で見た場合には、ごく普通のことである。イギリスの名門パブリック・スクール、ハーロウ校で教壇に立った経験を持つ松原直美さんの著書『英国名門校の流儀 一流の人材をどう育てるか』では、同校でどのような教育がなされているか、詳細に語られている(以下、引用はすべて同書より)。

 まず大前提としてイギリスでは軍人は遠い存在ではない、ということだ。

「軍人の功績を称える行事は国家レベルでも市町村単位でも行われ、軍人を顕彰する記念碑がいたるところに建っている」

 裕福な家庭の子息が多く、一種のエリート養成校となっているハーロウ校であっても、過去、多くの卒業生が国際間の戦争で戦ってきた。19世紀のワーテルローの戦いには志願兵として55人が参戦。ナポレオン3世の圧政に苦しむフランス人からの要請で出兵したこともある。最も有名な卒業生の一人、チャーチルも第2次ボーア戦争、第1次世界大戦などに赴いている。

 日本とは異なり、欧州では第1次大戦が極めて大きな出来事である。終戦記念日にはセレモニーなどが行われる。

「同校には第1次世界大戦後に建設された戦争記念館という堂々たる建物がある。入口には第1次世界大戦に出兵して戦場に散った卒業生を顕彰する祠(ほこら)が設けられている。この戦争では2917人の卒業生が出征し、642人が戦死、690人が負傷した」

■週に1度の軍事教練


 こうした歴史教育のみであれば、軍事アレルギーの人でもあるいは許容できるのかもしれない。しかしながら、現在でも同校では軍事教練が行われている。ハーロウ・ライフル隊の訓練がそれだ。10年生(日本でいう高校1年生)の途中から始まり、半年間は必修で、それ以降は選択制となる。

「軍事教練は週に1回約2時間。内容は隊列の編成、行進の練習など儀礼的な事柄から、野営した場合の食事の準備(飯盒炊さん)、カムフラージュなどのサバイバル技術習得、斥候術、オリエンテーリング、ライフルの分解、弾丸の装填、射撃、怪我人の応急処置など実戦的な演習まで幅広い。教練は学校敷地内の野原や茂み、観兵式場(舗装された広い場所)で行い、指導者も生徒も軍靴を履き迷彩服を着る。ハーロウ・ライフル隊の指導には男女数人の教員と陸軍、海軍、空軍所属の職業軍人があたる。学校が休みの期間には実際に軍の施設に行って演習を行うこともある。たとえばヘリコプターからロープで地上に降りたり、戦車に乗ったり、短時間で小屋を作ってそこで夜を明かしたり、夜警や実戦演習をしたりなど、学校ではできない体験をする。

 ハーロウ・ライフル隊の海軍部隊訓練に熟練した生徒約10人は、海軍訓練センターにて毎年秋に行われる中高生のための軍事教練大会に学校代表として派遣される。この大会は10代の若者のためとはいえかなり本格的で、チーム個々人の忍耐力とリーダーシップ、チームワークを試される。イギリス全土から20校弱が参加するが、どこも名高い伝統校である。丸3日かけて普段学校で行っている軍事教練項目や災害に巻き込まれた人の救出など多種の項目の成果を競う。森林や荒野で、地下壕を潜り抜けたり、胸の高さまである川を渡ったりする訓練もある。実技の他、軍事の歴史などを問う口頭試問も課される。陸軍部隊の代表者も毎年秋に士官学校の訓練所で行われる中高生の大会に出場し、射撃や渡河などのスキルを争う」

 ハウス(日本でいう学生寮)対抗の耐久競争も恒例行事だ。クロスカントリーの他、ライフル射撃も競技には含まれており、軍事学校教官が立ち合う。さらに、毎年3月にはハウス対抗軍事パレードもある。ライフル隊所属の各ハウスの代表生徒は深緑色のベレー帽をかぶり、深緑色のワイシャツ、セーター、ズボンを着用し、軍靴を履く。

 ハーロウ校が「右傾化」した特殊な学校というわけでは決してない。

「イギリスにおける軍人は昔も今も尊敬される存在である。イギリスの独立を守り通し、二つの世界大戦を終結させた軍部の自負は強い。卒業生たちが国軍の一助になってきたというハーロウ校の伝統は、机上ではなく軍事教練という体を使った訓練を通して生徒たちの体内に脳裏に刷り込まれていく」

 こうした教育を件の婦人団体ならば糾弾するのかもしれない。しかしながら、こうした教育を受けたパブリック・スクールの卒業生の多くが、イギリスの政財界はもちろん、スポーツ界、芸能界の中心で活躍している。歴代首相の7割がパブリック・スクール出身だ。

 現在の日本では、軍隊あるいは自衛隊経験者はごくわずかであるし、それどころか安全保障について体系的に学んだ者も少ない。軍事を知らない政治家と、軍事を学んだ政治家、平和に貢献できるのはどちらだろうか。

デイリー新潮編集部

2019年8月28日 掲載

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