ラグビーはなぜ英国エリートの必修科目なのか

■ラグビーと名門校の関係


 ワールドカップの開催も近づき、またドラマ「ノーサイド・ゲーム」も終盤に入り、なにかとラグビーの話題が増えてきた。ラグビーへの関心は高まっている。

 ただし、「やる」というよりは「観る」スポーツだと感じている人が圧倒的に多いだろう。野球やサッカーは何らかの形でやったことがあっても、ラグビーとなると極端にプレーした人数は少なくなる。正面からのぶつかり合いやタックルなどがあるため、危険だというイメージも強い。

 しかし、これが本場イギリスではちょっと様子が異なる。名門とされるパブリック・スクール(私立の中高一貫校)では、ラグビーが一種の必修科目となっているのだ。日本で言えば、開成、灘のような名門校にあたる学校で、なぜラグビーが重視されているか。

 名門ハーロウ校で実際に教壇に立っていた松原直美さんは、新著『英国名門校の流儀 一流の人材をどう育てるか』の中で、その理由を明かしている。


■肉体と精神を鍛える手段


 松原さんが日本語を教えていた同校では、基本的に新入生は最初の学期はラグビーをすることになっている。その理由は、決して全員にマッチョになって欲しいからではなく、次のようなものによるという。

「ラグビーはボールを奪う際に相手に飛びかかるなどの危険な行為を伴うため、怪我を防止しプレーを円滑に運ぶよう試合を裁くレフリーの存在が非常に重要だ。レフリーに不服を申し立てると反則を取られ、チームメートに多大な迷惑をかける。サッカーでもレフリーの判断に激しく抗議すれば反則を取られるが、ラグビーでのその厳しさはサッカーの比ではない。

 ラグビーではレフリーから反則を受けたら逆らわず黙って従うのみである。一部のサッカー選手がするようにレフリーへの不服を露わに態度で示すことはできない。たとえ不服を感じても自分を律して感情を抑え、試合の続行に集中する品位が必要とされる。つまりラグビーはルールやレフリーを尊重する精神をチームメート全員で持たなくては試合が成立しない。

 こうした性質からラグビーは肉体と精神を鍛える理想的な手段としてパブリック・スクールの教育に取り入れられてきた」

 そのため、ラグビー熱は高い。2015年のワールドカップで日本が南アに番狂わせで勝った時には、松原さんは校内や街中で多くの人に「おめでとう」と声をかけられたという。

「この勝利がきっかけで、今まで話したことのなかった教員とも話すようになったが、特に会話が増えたのはスポーツコーチやラグビーを担当する教員だった。彼らは俄然日本人の運動能力やメンタリティに興味を持つようになり、さらには日本そのものに敬意を払うようになったと感じる。

 スポーツ責任者で元ウェールズ代表ラグビー選手のジェレミー先生は『日本でコーチの仕事をしたい』と言い出すほどだった」

■日本へも遠征に


 この“必修科目”を終えたあとは、自由にさまざまなスポーツを選択できる。サッカー、クリケット、水泳、水球、アーチェリー、陸上、バドミントン、バスケットボール、クロスカントリー、フェンシング、ゴルフ、ホッケー、柔道、拳法、テニス、乗馬、ポロ、7人制ラグビー、クレー射撃は通年できるスポーツ。それ以外にもアイスホッケーやスキー、さらに「頭脳スポーツ」としてブリッジとチェスも。

「イギリス人は基本的にチームスポーツかつイギリス発祥のスポーツを好むが、礼儀を重んじる柔道は日本の明治時代にイギリスの紳士階級に普及したという経緯もあり、例外的に多くの学校の体育で取り入れられている。ハーロウ校ではオックスフォード大学在学中に柔道部首相だったモリス先生が柔道部顧問となり、専属コーチと一緒に指導にあたっている(略)。

 モリス先生が築いた日本柔道界トップとの縁を生かし、数年に1度日本にも遠征をし、講道館、柔道強豪校の道場などで日本人とも襟を交える。柔道の父嘉納治五郎が創立にかかわったという灘中学・高等学校柔道部とは交流が続いており、定期的に双方の生徒がイギリスと日本を行き来している」

 このように学問だけではなく、スポーツ教育にも力を入れるのがパブリック・スクールの伝統。現職ボリス・ジョンソンをはじめ、歴代首相の7割はパブリック・スクールの出身者だという。これがイギリス流のエリート教育なのである。

デイリー新潮編集部

2019年9月6日 掲載

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