世界遺産「ハロン湾」のプラスチック(中川淳一郎)

世界遺産「ハロン湾」のプラスチック(中川淳一郎)

イラスト・まんきつ

 ベトナムでこの原稿を書いています。いやぁ〜、首都ハノイのメシはウマいし、近くにある世界遺産のハロン湾もこれまで見た絶景で間違いなくNo.1です。これはやられた! 政治の中心地と言われており、ホーチミンと比べたら娯楽が少ないと思っていましたが、いや、ハノイの方が満足できました。何しろ歩きやすい。ひっきりなしのバイク・車の通行で道を渡るのに恐怖を感じるホーチミンとは異なり、ハノイの交通事情には、「ベトナムの大都市でも、歩きやすいところもあるじゃん」と見直しました。

 さて、現在世界的にプラスチックが海洋汚染をもたらすものとして悪者になっております。ハロン湾に向かうツアーのバスでは、ガイドの男性がマイクでこう言っていました。

「ハロン湾には、プラスチックのモノを持ち込んではいけません。コンビニのビニール袋も、ペットボトルもです。バスの中に置いて降りてください」

 陽気な東南アジアの国、といった印象もあるベトナムですが、とはいっても社会主義国。しかも世界で唯一アメリカに戦争で勝った国です。そりゃ、根性はすさまじいですよ。そんな国に滞在していると、去年、「一国二制度」の香港から中国本土の深センに高速鉄道で向かう際、中国本土の役人から入国審査された時の緊張感を思い出しました。

 香港のチケット売りのお兄さんはとにかく呑気で笑顔なのに、中国側の入国審査を受けた時は「我貴様監視中、例外的行為絶対不許可、場合於監禁・罰金的措置」みたいなインチキ中国語が頭をよぎりました。

 だから、男性ガイドのこの発言に対しては、荷物検査を受けてもしもポケットティッシュのビニール製のパッケージでも見つけられたら事務所に送られ、取り調べをうけるのでは……といった不安がよぎりました。

 確かに、昨今プラスチック製品による海洋汚染問題は深刻です。それを象徴するかの如く、ウミガメの鼻の穴に刺さったプラスチック製ストローをペンチを使って取り出す痛そうな映像が話題になったりするわけです。

 こうした風潮もあり、ハロン湾としては、一切のプラスチック製品排除を各旅行代理店に呼びかけたのでしょう。しかし、クルーズ船に乗る手前の自販機や売店ではペットボトルの飲料を売っているではありませんか! おいおい、バスに置いていけ、って一体なんだったんだ! そう思いながらも先に進んでいくと、船に乗るにあたってのチケットもぎり場の手前には、ペットボトルの飲料を捨てるカゴがありました。

 本当にプラスチック製品は持ち込んではいけなかったのです。2リットルの水を持っていた人は慌ててゴクゴクと水を飲み、1・7リットルは残っているであろうペットボトルをカゴに捨てていきます。

 その後、船内ではプラスチックチェックは一切なかったのですが、各人が捨てている様を見ていると「手に持っていた人」が捨てるよう指示されただけなのでしょう。やっぱりベトナムは緩い、と思いましたが、船内で提供された水はガラス瓶入りでした。果たして本当にリサイクルするかは分かりませんが、とりあえず意識の高さは感じました。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

「週刊新潮」2019年10月10日号 掲載

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