雌ライオンと呼ばれたゴーン夫人「キャロル」 略奪愛の履歴書

雌ライオンと呼ばれたゴーン夫人「キャロル」 略奪愛の履歴書

ゴーン被告とキャロル夫人(19年3月撮影)(撮影・大橋和典)

「非情な独裁者」スターリンはグルジアワインを愛好したという。彼の大粛清で流れた血はワインの色に重ねられるが、日本脱出を果たしたゴーンと妻のキャロルがグラスを合わせたのも赤ワイン。冷徹なコストカッターの妻もまた非情だった……知られざる履歴を辿る。

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「リヨンヌ!」

 カルロス・ゴーン(65)が12歳下の妻キャロルと再会し、最初に発した言葉である。キャロルは、胸が一杯で言葉が出なかったという。仏テレビ局「LCI」でゴーン夫妻によって明かされた、再会時のやりとりだ。リヨンヌとはフランス語で雌ライオン。妻を雌ライオンと呼んだゴーンはその理由をこう語っている。

「一生懸命、夫の無実と日本の司法の酷さを訴え続けてくれたからだ」

 彼女は実際、アメリカやフランスの大統領、国際人権団体に助けを求め、様々な働きかけをしてきた。と同時に、金に物を言わせ、ゴーンの前妻を含め、事件の関係者に口止めもしている。ゴーンはその勇敢さを百獣の王にたとえたわけだが、社会部記者は語る。

「キャロルはゴーンの事件の全容を解明するための鍵を握っています。ゴーンが日産の資金を還流させ、約16億円のクルーザー『社長号』を買った件が取り沙汰されましたが、クルーザーを購入した会社の代表は彼女だったのですから」

 しかし、と続ける。

「彼女に関する情報はさほど多くないんです。レバノン生まれのニューヨーク育ちで、のちにファッションブランドを設立して経営者となった。銀行員と結婚して3人の子どもをもうけ、離婚している。そして10年ほど前、NYで開かれたパーティーでゴーンと出会い、2016年に結婚。彼女の希望で、結婚式はヴェルサイユ宮殿で行われた。日本で報じられているのは、だいたいそんなところです」

 在仏ジャーナリストの広岡裕児氏に訊ねると、

「1月16日発売のフランス誌『パリマッチ』の取材に応じたゴーンが、逃亡をめぐり、日本人の協力者の存在を示唆して日本でもだいぶ話題になったようですね。この誌面にキャロルも一緒に登場しているのですが、彼女の来歴に関する情報はありません」

 しかし海外メディアには、断片的ながら、さらなる情報が出ているという。

「キャロル関連情報は、こちらの女性誌『マダム・フィガロ』や日刊紙の『リベラシオン』といった媒体に出ています。それらを総合すればキャロルの来歴はある程度、埋まります。まず、キャロルの母親はシリアのキリスト教徒の、大ブルジョアの家系。兄が1人いて、父親は、彼女が子どものころに亡くなっています。母子3人の暮らしが続くなか、80年代に母親が再婚した。でも、“キャロルは義父との関係がうまくいかなかった”とか、“キャロルは子ども時代にいい記憶がない。父親の不在、思春期にできた義父、これらのことが彼女の今日(こんにち)のタフなキャラクターを形成した”という知人の証言もあります」

 どんな暮らしを送っていたかといえば、

「母親はインテリアデザイナーで、サウジアラビアなど、おもに湾岸諸国の裕福な家の装飾を手がけていました。キャロルと兄は母親の仕事の都合で住む場所もずいぶん変わったといいます。友人によると、ドイツの寄宿学校に行っていたとの証言もある。そしてレバノンに戻ってベイルート・アメリカン大学を出ると、母親と義父と一緒にアメリカへと渡ったんです」


■成功者に弱い


 彼女はほどなく、NYの上流社会に入る。

「世界有数の資産を持つ金融グループである『シティグループ』に勤める男性と結婚するのです。そして2男1女をもうけ、理由と時期は定かではありませんが、おそらく2000年代になって別れた。そして09年、レバノン製のドレスをメインに扱うファッションブランドを立ち上げ、実業家デビューしたのです」

 だが、このブランドは数年で閉鎖。3人の子どもを抱えてどう過ごしていたのか。そのあたりを、リベラシオン紙はこう記している。

〈キャロルは、成功者に弱い。“彼女はカルロスのような野心的な女性です”〉

 ゴーンのレバノン時代の同窓生、エリー・ガリオス氏の証言だ。このガリオス氏の妻ファビエンヌさんがキャロルのいとこだった。彼の証言をまとめると、おおむね以下のようになる。

 離婚したキャロルは、NYで行われたパーティーでゴーンに会った。千人もの参加者のなかに、当時の妻リタさんを連れたゴーンがいたという。そこでキャロルはゴーンに近づき、挨拶をするとこう言った。「私はファビエンヌのいとこです。あなたのことが知りたいです」――。

 このときのゴーンはすでに世界的経営者として名を馳せていた。1男3女もいる。そんな男が妻を同伴した場所で、“いとこ人脈”一点を糸口に、「あなたのことが知りたいです」と直球勝負。

 雌ライオンが獲物を捕らえた瞬間だ。まさに、略奪愛である。ともあれ、これをゴーンが受け入れて二人の関係がはじまり、16年、ヴェルサイユ宮殿での挙式に至ったのだ。

 ゴーン夫妻は相変わらず日本への攻撃を続けている。すべての取材に同行し、八面六臂のご活躍で状況を下支えしているのはキャロル夫人。略奪愛の彼女のタフさは、まさに獅子奮迅、雌ライオンのそれなのである。

「週刊新潮」2020年1月30日号 掲載

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