【コロナ禍】外出制限で休業補償を瞬く間に決めたフランス やはり感じる日本との差

【コロナ禍】外出制限で休業補償を瞬く間に決めたフランス やはり感じる日本との差

マクロン大統領(The White House from Washington, DC/Wikimedia Commons)

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、フランスでは3月17日に外出制限が始まりました。一方、感染者は4月5日時点で約7万500人、死者は8000人を超えました。

 そのため、月末までの予定だった外出制限も4月15日まで延長されています。

 

 パリのオルリー空港が閉鎖されてコロナウイルス患者の輸送場所になり、TGV(高速鉄道)も医療車両となって患者の移送手段に使用されています。最近は若年層の感染者が増えていて、16歳の女性が亡くなったことにも国民は衝撃を受けています。

 エマニュエル・マクロン大統領が「私たちは戦争状態にある」と言ったのは大袈裟ではなく、まさに「戦争」という言葉を連想させるほどフランスもコロナウイルスの対応に追われています。

 日本では小池百合子・東京都知事が会見を行い不要不急の外出やイベント等の自粛を要請し、ロックダウンの可能性も示唆しています。それと同時に、すでに打撃を受けている飲食業界やイベント業界からは「自粛の話をするなら、それに伴う補償の話もセットでしてほしい」という声が多く聞かれます。

 フランスでは、コロナウイルスの騒ぎがなくてもストライキやデモ、暴動がよく起こります。政府は自分たちの権利を主張してきた労働者の歴史を考慮してか、外出制限によって発生する500万人にのぼる部分的失業者(※後述)に対して迅速な補償政策を打ち出しています。


■先手を打った補償政策


 国民議会は3月19日、フランス政府による62.5億ユーロ(約7300億円)の企業支援、3000億ユーロ(約35兆円)のローン保証を決定しました。

 では、フランスのコロナウイルスに関連した対応の一部を時系列にしてみます。

2020年3月
3日 経済対策チーム発足
12日 マクロン大統領がTV演説。コロナウイルスの拡大を受け外出を控えるよう求める
14日 エドゥアール首相が会見。スーパーや薬局など不可欠な業種以外の店舗は閉鎖
16日 大統領が再びTV演説
17日 外出制限開始
22日 「衛生緊急事態法案」(国民の保護、社会的・経済的損失の回避等を目的とした法整備)が議会で採択
25日 「25のオードナンス(命令)」が閣議決定。労働者への補償など具体内容を説明
31日 1500ユーロ(約17万5000円)の定額支援、申請スタート

 12日に行われたTV演説で、大統領は「国民の不安をよく理解している、国は大規模な支援をしていく、数日、数週間のうちに対策を出す」と明言しました。ただ、この時点ではレストラン等の休業には触れず、企業や労働者への支援、失業対策に加え、3月の税金や社会保険料の支払い延期などについて言及していました。

 14日の首相会見で「レストラン、バー、ナイトクラブ、映画館等の店舗閉鎖」が発表されました。ただ、ニュースなどで事前にある程度国民にも認知されており、16日の大統領の演説前後から政府サイトやTV等で休業による補償内容が国民に伝えられ、順次具体化していきました。

 25日の首相会見では、23日に公布された衛生緊急事態法を適用した25件のオードナンスに言及。コロナウイルス危機により後述する部分的失業状態になった従業員は手取額の約84%が国から支払われることなど、より詳細な内容が説明されました。


■即時の事業支援策


 大統領は12日の会見で「苦境に立たされることが予想される中小企業や自営業者、フリーランス等に対して支援をしていく」と述べた通り、様々な補償を打ち出し、すでに実行しています。具体的に見てみましょう。

・1500ユーロの定額支援
 直近年度売上高が100万ユーロ(約1億1700万円)未満、従業員10人以下の小規模企業、個人事業主、フリーランスが対象。コロナウイルスの影響で休業を余儀なくされた、または昨年同月より50%以上売上が落ちていることが条件です。また債務支払いが困難などの状況にあれば更に2000ユーロ(約23万4000円)の支援も用意されています。この支援金は非課税で、税務署のサイトなどから申請できます。

・法人税等の納税延期
 法人税、社会保険料の支払いの延期が認められています。また付加価値税の払い戻しも受けることができます。オンライン、メール、電話等で申請できます。
 すべての法人や個人事業主、フリーランスなどが対象で、規模、事業形態により申請方法が違います。

・家賃、水道・光熱費の支払い延期
 政府は商業施設や不動産会社に対して、家賃の請求を一時停止するように要請しています。審査により約3億5000万ユーロ(約410億円)の住宅連帯基金から支援を受けられるケースもあります。

 貸主に支払い延期を申し込んで合意に至らない場合は、「未払い賃料SOS」というフリーダイヤルが設置されていて、利用可能な支援等の法的アドバイスをもらえます。

 水道、ガス、電気等は供給会社に支払い延期依頼の連絡をすることで、支払いの延期ができます。

・3000億ユーロ(約35兆円)の融資保証
 企業向け銀行融資を、政府が最高3000億ユーロまで保証するシステムです。事業形態や企業の規模を問わずに申請することができ、初年度の返済は不要です。
 また既に受けている銀行融資も6か月の支払い猶予が認められています。
 大企業に関しては、2020年中に株主配当を行わないこと、株を買い戻さないことが条件とされています。

・給与の84%を補償
 フランスでは、企業が事業活動を縮小するために従業員を一時的に休業させる「部分的失業」制度があります。その際、企業は一定割合の給与を支払わなければいけません。コロナウイルス危機で休業を余儀なくされた場合、企業は従業員に額面の70%(手取り額の約84%)を支払いますが、国から同額を補償されます。

 ただし、スミックとよばれる最低賃金で働いている従業員は100%が補償されます。

 補償の期限は決められていませんが、政府から現在の外出制限、店舗閉鎖の指示が続く限り支払われるようです。実際は国からの補償と合わせて企業が残りの約16%を従業員に支払い、満額を受け取れるようにしているケースもあります。

 具体的な申請方法がわからず不安に思う経営者も少なくありませんが、随時政府サイトで申請方法などの詳細な情報が更新されています。

 知人のフランス人経営者に聞くと、「(補償は)ないよりはもちろん良いよね」という人もいれば「1500ユーロは大した金額ではないし、自分たちは給与から税金や失業保険をかなり払っているんだから当然」と受け止めている人もいます。
また、パリで2軒目の飲食店をオープンしたばかりの日本人経営者からは「支払いが猶予されても、数か月後には支払わなければいけないので、(経営)再開のめどが立たないうちは不安」など様々な意見があります。


■これからも期待される政府からの支援


 さらに、コロナウイルス危機と闘う最前線にいる医療従事者、国民の生活に必要な食料を販売するスーパーマーケットの従業員には1000〜2000ユーロ(約11万7000円〜23万4000円)のボーナスも提案されています。

 これは大統領自らが会見で言及し、労働大臣からも提案されています。財源や実施時期は確定していませんが、他の支援策と同じように今後詳細が発表されると思われます。

 私の周囲のフランスの友人や知人の間では、外出制限や仕事ができなくなったことで、今のところ大きな混乱や政府に対する不満の声は聞かれません。

 おそらく、「仕事ができなくなったら、この先どうなるんだろう」と心配する前に「80%くらいの補償があるらしい、家賃も払わずにすむ(実際は免除ではなく、支払いの延期)かもしれない」などという情報が出回り、政府も法制整備をした上で詳細な情報を随時発信していることが大きく関係しているのではないでしょうか。
 私自身、フランス政府の政策決定や法整備には、スピード感があり、「対策を怠っていない」という印象を受けています。

 労働者の危機は国の危機――。フランス政府は、平時からこういう認識があるせいで、素早く充実した補償や支援策を打ち出しています。第一線で闘う人への支援など、むしろ国民の不安が大きくなる前に先回りして策を出している印象もあります。


■コロナウイルス危機の収束に向けて


 小池知事は会見で「(コロナウイルスの)影響を受けている中小企業等に関して国に更なる強力な支援を要望して参ります」、「都独自の対策も考えて参ります」と発言しているものの、会見では具体策は聞かれませんでした。

 世界中でコロナウイルスは拡大し続け、ヨーロッパ、アメリカは予断を許さない状況です。国や地域により影響は違いますが、国民を安心させ、拡大終息に向けて取り組むのが政府の役目ではないでしょうか。

 日本も一刻も早く政府主導で国民、企業に補償を用意し、それぞれの立場で協力、団結して感染拡大を食い止めてほしいです。

(日本円は1ユーロ117円で計算)

ヴェイサードゆうこ
翻訳家・ジャーナリスト。青山学院大学国際政治経済学部卒。ITベンチャーから転身し、女性向けweb媒体のライター、飲食専門誌の編集記者として執筆。2016年よりフランスに移住し、現在はYouTubeで現地情報を発信中(http://bit.ly/2uQlngQ)。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年4月7日 掲載

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