台湾有事を画策する中国の本当の狙いは米軍をアジアから追い出すこと

ロシアによるウクライナ侵攻が起きたことによって、習近平主席の台湾併合戦争は早まったのでしょうか、それとも遅くなったのでしょうか? 中国が台湾に侵攻をした場合、米軍は台湾を助けために動くでしょう。しかし、今のバイデン政権では少し心もとないのも事実である。このままアメリカで民主党政権が続いたならば、中国が台湾侵攻を起こす可能性が高くなるかもしれない。

中国そして中国人の裏のウラまで知り尽くした石平氏と米国の政治学者エルドリッヂ氏が精魂を込めて語り合った「日本のための防衛論」。この二人だからこそわかる中国と米国の「本音」を聴いてみよう。

■台湾が攻撃されたら米軍は本当に動くのか?

石平 習近平主席が一番知りたいことは、台湾が中国の攻撃を受けた場合に、米軍は出動するかどうかです。これについてエルドリッヂさんの見解はどうですか?

エルドリッヂ 出動がなければアメリカのアジアにおける地位は終わります。なぜなら、アメリカをアジアから追い出すことが、中国の本当の狙いだからです。

中国は、台湾を手に入れることにより、第一列島戦を突破し太平洋に展開できるようになります。日本を中立化し、フィリピンで資源を獲得し、残りの国々へは、アジアから消えたアメリカと連携するのか、それとも中国と組むのかの二者択一を突き付ける。それを迫られたら、中国側に付くしかない。

アメリカが条約を理由に台湾に協力しなければ、その瞬間にアメリカも終わりです。

▲左が第一列島線、右が第二列島線 出典:ウィキメディアコモンズ(パブリックドメイン)

石平 逆説的に言うと、アメリカは終わりたくなければ台湾を助けるしかない、ということですね。そういう意味では、我々にとって一つの安心材料にはなる。

エルドリッヂ ただし、バイデン政権では心もとない(笑)。

石平 中国もそのことは頭に入れているはずです。バイデン政権がいつまでもつか。ということは、次の大統領選である2024年は、習近平主席にとっての時刻表になっていると思います。

エルドリッヂ トランプが大統領になれば別ですが、このまま民主党政権が続けば、中国が台湾侵攻を起こす可能性は高いです。

■ウクライナ戦争によって台湾侵攻は遅くなったのか

石平 ウクライナ戦争が起きたことによって、習近平主席の台湾併合戦争は早まったのでしょうか、それとも遅くなったのでしょうか? まず私の見解を述べれば、習近平主席への一定の抑止になったのではないかと思います。

第1に、プーチン大統領の戦争が、ウクライナの抵抗により予定どおりにうまくいっていない。習近平が狙っているのも速戦即決です。台湾海峡があるため、ウクライナ戦争よりもそれを求められる。ウクライナの抵抗をみることにより、習近平は台湾侵攻の困難さを覚えたのではないか。

第2に、最近の台湾の世論調査によると、7割以上の台湾人が武力侵攻が発生した際には、国のために戦うと答えています。もちろん、世論調査どおりになる保証はありませんが、国のために戦う人が多いのも事実です。

第3に、習近平主席にとってショックだったのは、西側の結束による経済制裁です。ロシア経済に比べて中国経済は大きいし、関係の構造自体が違うのは間違いありません。中国からの輸入が途絶えれば、アメリカはインフレになるでしょう。

ただ、中国経済の西側への依存も大きい。輸出はGDPの2割を占めますが、波及効果を含めれば35%くらいはあるでしょう。中国にとって大きなマーケットは3つあります。東南アジア、アメリカ、EUです。アメリカとEUから締め出されたら、かなりのダメージになります。

第4に、ドルの経済システムから締め出されたら、ASEANとの輸出もダメになる。

第5に、中国は“輸入大国”でもある。食料もエネルギーも海外の依存度が高い。食品輸入総額も、2020年度統計で981億ドル(約11兆3360億円)に達しました。輸入量ではおよそ7億トン。だからこそ、ロシアへの経済制裁にはショックを受けているはずです。

もちろん、経済制裁をする西側も打撃は大きい。しかし、欧米も日本もそれで死ぬことはない。なぜなら、中国から輸入しているのは食料でもエネルギーでもないからです。パンツとか衣類であり、パンツは履かないで我慢すれば済む(笑)。それは冗談ですが、少なくともロシアのエネルギーに依存するドイツのような状況とは違う。

ですから、中国の決断は簡単ではないのではないか。あるいは、そういう問題があるから、侵攻に踏み切るまでは“ためらい”が生じるし、制裁へ対抗するための準備時間も必要になる。

■永世中立国のスイスがロシア制裁に加わった衝撃

石平 第6に、共産党の高官にとってショックだったのは、プーチン大統領だけでなく、オリガルヒやロシア政府高官も金融制裁の対象にしていることです。特にスイスが口座を凍結したことは、ショックだったに違いありません。

「永世中立国」でありEU非加盟国であるスイスが、“中立的立場”であるという自身のアイデンティティーをかなぐり捨ててまで、ロシア制裁に加わったのですから。現にスイスは、2014年のクリミア危機では、迂回路として利用されることを避けるためだけの措置にとどまり、ロシア制裁には加わりませんでした。

しかし、今回初めてスイスはEUの制裁パッケージの全面導入を決定した。欧州の団結を示す象徴的事例になったわけです。

これまでは、スイスの銀行口座に預けていれば絶対に安全だったと思っていた中国共産党の高官たちも、欧米やスイスの銀行に隠し財産を預けているから影響が大きい。中国人にとっては、“民族の大義”よりも“個人の財産”を守ることのほうが死活的に重要です。

以上の理由から、習近平主席は簡単には台湾併合戦争に踏み切れないと思うのです。

▲環太平洋合同演習 出典:ウィキメディアコモンズ(パブリックドメイン)

エルドリッヂ 台湾侵攻が早まるのか遅くなるのかはわかりませんが、中国が戦術を見直していることは間違いありません。

なぜウクライナにおけるロシアの作戦がうまくいってないのか。あるいは世界各国の反応はどうか、どのような制裁措置にでたのかでないのか。そして、台湾と一番関係する周辺国がウクライナの情勢に対してどう動くか、日本がどう対処しているのか。中国は非常に細かく分析していると思います。

ただし、全体の流れとしては、中国の台湾侵攻は止められないでしょう。前述のように政治的・外交的にタイムラインがありますが、中国の立場に立つなら、宇宙戦が優位なうちに、日米台が一体になる前に侵攻したいはずです。

ウクライナの事情が完全に台湾に当てはまらないのは、台湾が「国」ではないからです。加えてNATOのような組織がアジアにはないからです。

※本記事は、石平×ロバート・D・エルドリッヂ:著『これはもう第三次世界大戦どうする日本』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

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