独裁国家の「裸の王様」はプーチンだけじゃない

これまでの論理的な思考を失い、合理性のカケラもないウクライナ侵攻に手を出したプーチン。感情的になっていつ戦争を仕掛けてくるかもわからない国々に囲まれた日本は、これからどのように対策していけばいいのだろうか。防衛問題研究家の桜林美佐氏の司会のもと、小川清史元陸将、伊藤俊幸元海将、小野田治元空将といった軍事のプロフェッショナルが、日本と独裁国家たちの違いについて解説します。

※本記事は、インターネット番組「チャンネルくらら」での鼎談を書籍化した『陸・海・空 軍人によるウクライナ侵攻分析-日本の未来のために必要なこと-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

■独裁国家のハイブリッド戦に対抗できない日本

小川(陸) 「なぜキエフを攻撃したのか?」について補足しておきたいのですが、これこそまさにロシアの「ハイブリット戦」、あるいは中国の「超限戦」の怖さが存在しているところです。ロシアや中国といった独裁国家における意思決定がどうなっているかを知ることは、日本にとっても非常に重要です。

ロシアの組織図を見ると、ロシア連邦軍参謀本部の直下に特殊部隊や情報部隊、サイバー部隊があって、各作戦の効果のあり・なしが、すぐにプーチン大統領の耳に入る状態になっているわけです。中国も同様に、すぐに意思決定者に情報が届くようになっている。

▲クレムリン 出典:大竹 進 / PIXTA

そうすると何が起きるかといったら、プーチン大統領が、ある国家意思を立てた場合、国防省以下の各組織に作戦の計画立案をさせる。独裁者が自分で書くはずがないですからね。

たとえば、2014年のクリミア侵攻と同じように、特殊部隊やサイバー部隊が、まず計画案を出す。「その計画が失敗してダメだったらどうするんだ。ウクライナ東部への攻撃だけでいいのか」とプーチン大統領に返されると「通常戦で首都に向かって空挺砲撃し、地上戦で囲みます」「それだけか?」「核の脅しも入れます」という流れになる。そこまでが計画だと私は思います。

そして、そのうえで部下が、プーチン大統領に対して「でも、本当にやるんですか? この計画は即断即決をしなければ相手国の意思を変えることなどできないと思います。大統領、ここはステージを上げるために大統領が決心してください」というくらいのやり取りは、あるんだろうと思います。

つまり、部下は、最終的な判断をすべて独裁者が決心するようにもっていく。これがハイブリッド戦や超限戦において、国家の指導者に情報が集まってくるメカニズムであり、それを組織的に作り上げているのだと思います。ハイブリッド戦や超限戦を展開する国の、迅速に意思決定できる指導体制のある国の怖さです。

では、日本の場合はどうか。サイバー戦の対策ひとつとっても縦割りで、国家的な危機につながる情報があっても、それを丸めて「恐くないようなもの」に仕立て直してから、上に報告する可能性がなきにしもあらず、です。

桜林 日本では、ハイブリッド戦を戦えるような体制にしようにも、リーダーシップといいますか、もっと最高指揮官の意志決定が反映される形にしていかなければならないということですね。縦割りの体制ではできないと。

小川(陸) そこが非常に重要です。

■明らかに以前と変わってきているプーチン大統領

伊藤(海) とはいえ、今のようなことをロシアが続けていたら、ロシア人自体が疲弊するし、あるいはシロヴィキたちも反旗を翻すかもしれない。そうした事態になるのは目に見えているのに、なぜプーチン大統領がそれを読めなかったのか。そこが私には理解できないんですよ。

その点、これ以前のプーチン大統領は非常にうまくやってきていて、妥協するときは平気で妥協していました。まさに手練手管の“インテリヤクザ”だったわけですよ。国際法の隙をついて、ギリギリのところまで悪いことをする、というのが得意技だったのに、今や現実としてロシアは孤立しているじゃないですか。はっきり言って、ロシアを崩壊に導いている。そこが本当に理解できない。

特にワレリー・ゲラシモフ(参謀総長兼第一国防次官)のように非常に優秀な人たちがいるのに、なぜプーチン大統領を止めることができないのかわかりません。「ゲラシモフ・ドクトリン」によれば、戦争の手段の重点は軍事的手段から非軍事的手段に移行し、あからさまな武力行使は紛争を最終的に成功させるために行われると説いています。彼のような人たちが、なぜプーチン大統領を止めなかったのか。

そもそも「電撃戦」をやるにしても、ウクライナの国境付近で3か月も前から兵力を結集していれば、ウクライナが構えるのは当然で、電撃戦になっていない(笑)。軍事合理性なんてあったもんじゃないでしょう。

▲ワレリー・ゲラシモフ 出典:Mil.ru(ウィキメディア・コモンズ)

桜林 相当キレているというか、何か怒りを感じますね。

伊藤(海) 感情論でしか動いていないですよね。

桜林 周りの将軍たちに怒りをぶつけていると報じられています。

小野田(空) 逆に言うと、そういう殿様を見て周りの人たちが、“耳心地のいい”ことしか言えなくなってしまったという、まさに“裸の王様”的な状況になってしまっている。それしか考えられないですよ。

■“裸の王様”的な独裁者が日本の周りには3人もいる

伊藤(海) でも、それはありうることですからね。独裁者及び独裁体制にはありえる事態で、日本の周りにはそんな独裁者が3人もいる。

▲プーチンと習近平(2015年9月3日) 出典:ウィキメディア・コモンズ(パブリック・ドメイン)

桜林 中国や北朝鮮でも同じことが起きる可能性があります。

伊藤(海) ようするに合理的じゃないということです。合理的じゃなく戦争が起きると。

桜林 たとえば、独裁者の健康状態によって急に考え方が変わってしまう可能性も想定しなければならない。

伊藤(海) 日本も、本当にそこは真剣に考えなきゃいけない。

小川(陸) 独裁者は、目的はある程度決めていますよね。しかし、目的さえ達成できるのであれば、その手段が国際法などから逸脱していても強引に部下にやらせてしまう。ここは気をつけておかないと対応を間違ってしまいます。問題は、我々がそれをどうやって止めるかということです。残念ながら、敵の指導者が命ずる行動や作戦は、すべてが目的・合理的に行われているわけではありませんから。

小野田(空) ただ、「ロシアの情報戦は功を奏していない」という意見が、我々が接している西側の情報では大勢ですが、非常に面白い分析をTwitterで見つけました。イギリスの分析者が言うには、ロシアがアフリカ諸国やインドネシアといったところに向けて、SNSを駆使して偽情報を拡散し、親ロ派勢力を広めているとのことです。

なぜそれがわかったかというと、ようするにロシア語ではなくインドネシア語など現地の言語で、流されているからです。先ほど伊藤さんがおっしゃった、国連総会で棄権した国にそうした情報発信が集中している、という研究結果が出ているんですよ。

ですから、ロシアは国連での多数派を狙うのは無理にしても、「我々の行動は正しく、偽情報を流しているのは西側なのだ」という認識を持つ国を、一国でも増やそうとしているのだと思います。

その主張の当否はともかく、また効果も終わってから分析してみなければわかりませんが、この分析自体は傾聴に値します。ただ、情報戦にしてもサイバー戦にしてもそうだけれども、効果というものをどこで測定するのかは非常に難しい問題です。

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