2027年までに「台湾有事」が起こる可能性について米国の認識は?

2023年5月19日から21日まで開催されるG7広島サミット。今回のテーマのひとつに中国問題がある。つまりは、すでに台湾有事のカウントダウンが始まっているのだ。しかし、じつは米国内にも台湾有事に対する危機認識の“温度差”がある。日本随一の中国ウォッチャーとして知られる評論家・宮崎正弘氏が、米国における台湾有事の議論を分析する。

※本記事は、宮崎正弘:著『ステルス・ドラゴンの正体 - 習近平、世界制覇の野望』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

■2025年に米中戦争がおこる?

ステルス・ドラゴン(潜龍=中国共産党中枢)の当面の軍事目的は台湾への侵攻である。それがあるか、ないかの問題ではなく「いつか?」という時間の問題となった。

米空軍航空機動軍団のマイク・ミニハン大将は「予感」とするメモを認めた。

「2025年に米中戦争がおこる」

その根拠は「2024年に台湾とアメリカで選挙が行われ、米国の関心事は新政権への移行期となって、外交が弛緩する隙間ができる」というスケジュール予測からである。

留意されたい。中台戦争ではない。米中間で戦争がおこると言っているのだ。

このメモに対して下院外交委員会のマイク・マコール委員長は「彼が間違っていることを願うが、残念ながら彼は正しい」と述べ、中国軍の軍事力の拡充ぶり、そのリアルな存在、その脅威を指摘した。となると、米国がすでに決めている台湾への武器供与は間にあうのか。

2023年1月11日、米連邦議会下院は「米中戦略競争特別委員会」(中国問題特別委員会)設置を賛成多数で可決した。初代委員長に共和党、反中派議員の代表格のマイク・ギャラガー議員が就任した。マイク・ギャラガー委員長は、2023年2月第3週に台湾を秘密裏に訪問し、蔡英文総統と会談していたことが明らかになった。

ギャラガー議員は海兵隊大佐退役。ジョージタウン大学で「冷戦」を研究し、論文は「トルーマン、アイゼンハワーと冷戦」。熱烈なトランプ支持者としてウィスコンシン州選出4期目。まだ38歳。対中強硬派で知られる。

この中国問題委員会は、中国共産党の調査研究にあたり、とりわけ技術や経済、米中関係ならびに米台関係の現状、サイバースパイの実態、南シナ海問題、ウイグルやチベットなどにおける人権問題などを取り上げる。

ギャラガー氏を迎えた蔡総統は「友人の訪問を歓迎し、民主主義、自由、平和を守るために協力したいと考えている」と発言した。

台湾はハープーン対艦ミサイルやF16ジェット戦闘機など、重要武器を含む190億ドルの武器供与を受ける。しかし虎の子のハープーンは「2027年までの納入が危ぶまれている」とギャラガーは焦燥を述べた。

ハリー・ハリス(元米海軍インド太平洋軍司令官)が議会で証言し、「中国の台湾侵攻は2027年までにおこるだろう」と発言した。この2027年説は軍人の現場感覚と言える。また同氏は、2023年2月7日、米下院軍事委員会公聴会でも「中国が台湾を奪取する意図は明らか。米国は中国が数年以内に台湾に侵攻するという見通しを無視している」と証言した。

▲ハリー・ハリス United States Department of State / Wikimedia Commons

「インド太平洋軍の私の後継者は2021年に議会で、中華人民共和国が6年以内に台湾を侵略する可能性があると証言しています。2027年です」とハリスは強調した。

「私の考えでは、全面的な侵略というよりも小さな作戦になるかもしれません。シナリオの一つは離島への脅威であり、台湾の重大な安全保障上の懸念です」

下院軍事委員会の共和党メンバーは「大陸間弾道ミサイルの発射装置の数で中国が米国を上回った」とし、「習近平国家主席は公式的にも最終的には武力を使わずに台湾を吸収するとしているが、2027年は中国人民解放軍の100周年である。“曖昧戦略”の時代は終わった。もし中国が台湾に侵攻した場合、どうなるかについて、我々の意図を明確にしなければならない。中国は必要に応じて最終的に台湾を占領するという意図を明確にしている」と懸念を表明している。

■軍関係者とCIAの分析の“温度差”

中国軍は、ナンシー・ペロシ下院議長(当時)の台湾訪問(2022年8月)直後に大がかりな軍事演習を行い、日本の排他的経済水域(EEZ)にも弾道ミサイルを5発撃ち込んだ。尖閣諸島周辺海域への領海侵犯は日常茶飯である。

さらに、中国軍は2023年1月8日から軍用機57機、艦艇4隻を投入して大々的な軍事演習を展開した。ドローンによる偵察はほぼ毎日行われている。

これまでに米国から発せられた中国の台湾侵攻シミュレーションのなかで、最も早い時期を予測したのはマイケル・ギルディ海軍大将で「2023年の可能性もある」とし、多くの軍事関係者の「2025年以後」という予測より早い時期をあげた。

CSIS(米戦略研究センター)のシミュレーションでは2026年を予測している。なぜなら中国人民解放軍の創立100周年を迎え、習近平が3期目の任期を満了するため、その前年までに派手な「成果」を見せつける必要があるからとする。

「2027年説」に加わったのは、フィリップ・デービッドソン米インド太平洋司令官である。すでに2021年3月の時点で「侵攻の脅威は2027年までに顕在化する」と予測していた。

▲ナンシー・ペロシと蔡英文(2022年) 写真:總統府 / Wikimedia Commons

一方、CIAのウィリアム・ジョセフ・バーンズ長官は、2021年2月2日にジョージタウン大学の行事に参加して「CIAの評価は習近平主席の台湾に対する野心を過小評価していない。2027年までに台湾侵攻を成功させるための準備をなすよう解放軍に指示したことをCIAは掴んでいる」とすっかりトーンダウンした予測を述べた。

バーンズCIA長官は秘密裏にクレムリンを訪問し、またイスタンブールでもロシアの情報機関トップと会合をもっていることが確認されている。

CIAのもっぱらの情報収集はウクライナ戦争の分析で「向こう半年が重要だろう」と述べ、「中露関係は完全に無限の関係ではなく、中国はロシアへの武器供与を抑制している」と分析した。事態はあべこべで中国製ドローン100機が、すでにモスクワへ供与されたとドイツ『シュピーゲル』誌が報じている(2023年2月24日)。

この軍人たちの危機認識の温度差、予測のずれは何から生じているのか?

戦場の現場感覚から「台湾ではなく、米中間の戦争が近い」と感知する軍隊のトップと、いまや「情報サロン」と化したCIAなどの机上の空論組との誤差なのか?

米国情報機関ならびに軍高官の一連の発言から推測できることは、軍の予算獲得にあり、ウクライナへの大量の武器供与で在庫を減らした米軍の装備充填に置かれている。

▲ウクライナに供与されたとするアベンジャーシステム 写真:United States Marine Corps / Wikimedia Commons

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