香港デモに参加していた若者に“不自然”な自殺者が増えた謎

香港デモに参加した若者の自殺が相次ぐ 警察に殺害された抵抗者の偽装自殺を疑う声も

記事まとめ

  • 香港デモに参加した15歳の少女の行方が分からなくなり、全裸の遺体で海から発見された
  • 警察は外傷がないことから死因を自殺と断定し、遺体は火葬されてしまった
  • 自殺とは考えにくいと友人が主張しており、デモで殺害されたが隠蔽されたとの声がある

香港デモに参加していた若者に“不自然”な自殺者が増えた謎

香港警察の発表によると、2019年6月から10月の間の「自殺者」は、例年よりも1割以上も多い256人もいたとされています。しかし、香港デモを現場で取材していた福島香織氏によると、警察とデモ隊の衝突によって死者が出た場合に“隠蔽”されたのではないか、という噂が市民の間には広がっていたとしています。

■中国政府が香港警察に出した「殺人許可証」

2019年11月9日は、ベルリンの壁崩壊から30年目。あの東西の激しいイデオロギー対決が終焉するまでの困難と、多くの犠牲の再現にも思える状況が香港で起きていました。

11月8日、初めてデモの参加の最中に犠牲者が出たことが公式に確認され、警察の暴力に対する怒りと犠牲者追悼のために、9日はさらに大規模なデモに発展しました。

犠牲者は香港科技大学の22歳の男子学生です。5日、軍澳の近くで警官隊の放つ催涙ガス弾に追われて、立体駐車場の3階から2階に転落し脳内出血、骨盤骨折で重体となり搬送先の病院で死亡しました。警察は「警察側に責任はない」とコメントしましたが、救急車の到着が警察の妨害で少なくとも20分遅れており、香港科技大学の学長は、第三者による死因調査と情報公開を求め、警察の責任を問いました。

11日にはゼネストが呼び掛けられ、デモ隊は交通をマヒさせるためにあらゆるところで交通妨害活動を行いました。これに対し、出動した警官の暴力は常軌を逸していました。金融街のある中環(セントラル)では、通勤客を巻き込むかたちで高温かつ毒性の強い中国製の催涙弾を容赦なく打ち込みました。

この中国製の催涙弾は250度の高温で、アスファルトに着弾するとアスファルトが溶けました。こんな兵器を一般人もいる市街地で何百発、何千発と打ち込みました。香港警察は従来、英国製の催涙弾を使用していたのですが、英国側が香港警察のやり方に抗議して、こうした武器の輸出停止を宣言したため、香港警察は中国製武器を使うようになっていました。

ですが、中国製の催涙弾は、英国制よりも殺傷能力が高く、しかもガスの成分が公表されていません。この中国製催涙弾が使われるようになってから、喘息やクロロアクネに似た皮膚障害などの健康被害が、市民から多く寄せられるようになりました。

香港島東部の西湾河では、道路にバリケードをつくっていたデモ参加者に向けて、交通警察が実弾を3発発砲、そのうちの1発が柴湾大学生(21歳)の腹部に当たり、腎臓と肝臓を損傷して、学生は重体となりました。九龍半島側のバス通りで交通妨害をしていたデモ隊を、白バイが轢き殺そうとでもするかのように追い回す映像もネットに上がっていました。

中国政府は、北戴河会議から2019年10月末の四中全会〔第4回中央委員会全体会議:10月28日〜31日〕までは「死者を出さない」ことを香港政府に要求していた、と私は共産党内部事情通から聞いていましたが、11月には犠牲を出しても香港デモの鎮圧を急ぐ方針に変えたようでした。

こう考える根拠は、こうした香港警察の過激化が11月4日、香港行政長官の林鄭月娥が上海で習近平と会談して戻ってきて以降に顕著になったからです。

当初、いよいよ林鄭は中国から辞任させられるのではないかと思われていたのですが、この北京行きで、林鄭は習近平から「高度な信頼」を寄せられていることが改めてアナウンスされました。

その直後に新華社を通じて、四中全会のコミュニケ全文が発表されました。その内容をみると、習近平の香港への対処方針は、中国憲法と香港基本法を盾に取った“法規”に基づく「抵抗者の徹底鎮圧」でまとまったとみられました。これをもって、香港警察に「殺人許可証」が出た、ということです。

林鄭に対する習近平の信頼アピールは、林鄭に「汚れ仕事をやれ」と命じたようにも受け取られました。

公式の犠牲者が出たのは11月になってからですが、多くの香港人は他にもたくさん犠牲者がいる、と言います。太子駅で3人が死亡した疑いは依然晴れていません。このため警察とデモ隊の衝突によって死者が出た場合も“隠蔽”されているのではないか、という疑心暗鬼が市民に広がっています。

というのも2019年6月から10月の間の「自殺者」は、例年よりも1割以上も多く、警察発表で256人もいるのです。死因の不明な死亡ケースが2537件。これは前年同期より311件多いのです。

警察に殺害された抵抗者の“偽装自殺”があるではないか、という噂は消えません。

■デモに参加した犠牲者はいったい何人?

疑わしい“自殺”の例として、香港で生前積極的に「反送中デモ」に参加していた15歳の少女、陳彦霖(ちんげんりん)さんが全裸の遺体で海から発見された事件があります。これは警察から「自殺」と断定されましたが、その後も多くの疑惑や謎が残っていることから、同級生らが真相究明を求め続けています。

時系列的にいえば9月19日、知専設計学院に通いm地区の水泳飛び込み選手としても活躍していた陳彦霖さんが、下校中に友人と別れて以降、行方がわからなくなっていました。

家族は21日に警察に捜査願いを出しました。9月22日に新界区の軍澳海浜公園のデビルズピーク沿海部で釣りをしていた男性が、浮遊していた女性の遺体を発見。警察は当初、22歳から25歳の女性の遺体を発見と発表していました。

一方、25日からデモ参加者が連絡を取り合うテレグラムや掲示板LIHKGなどに、陳彦霖さんの行方を捜すために、その写真や特徴などの情報が拡散されていました。香港・蘋果日報の記者が、この特徴と22日に発見された女性の遺体が一致するのではないかと警察に問い合わせたところ、警察は10月9日までに陳彦霖さんであることを認めました。

蘋果日報は10月11日にスクープとして、22日に海上で発見された身元不明遺体が陳彦霖であることを報じました。ところが警察は、外傷がないことから死因を自殺と断定し、家族は10日に葬式を行い、すでに遺体は火葬されてしまったのです。

彼女自身の性格の明るさや飛び込み選手としての強靭な精神力を備えていたこと、積極的にデモに参加し、生前に撮った自撮りビデオで「あなたに何かあっても、私がついている!」といった人を励ますようなポジティブなメッセージを撮影していたことなどから、自殺とは考えにくいと親しい友人たちは主張しました。

▲陳彦霖さんを追悼する人々 出典:ウィキメディア・コモンズ

彼女は、ボーイフレンドがデモ参加中に逮捕され拘留中、面会に行ったときに女性警務官を蹴ったことにより公務執行妨害で逮捕され、その後、児童院(少年院に相当)に入院していたことが確認されていました。

彼女の母校側(知専設計学院)は、14日に陳彦霖が自殺であることを示す根拠として、校内の監視カメラに写っていた映像の一部を公開しました。そこには校内を徘徊する奇妙な様子の陳霖彦が映っており、彼女が心の問題を抱えていたことの根拠とされました。

ですが、この映像は切り張りで不自然なところがあるとして、同級生たちは10月15日に学校で追悼集会を行い、学校側にすべてのビデオを公開するように迫りました。

▲追悼集会を行う知専設計学院の学生たち 出典:ウィキメディア・コモンズ

学校側は当初、その提出を渋っていましたが、要求に従い2本のビデオを公開。ですが、ネットユーザーたちは、このビデオに映っている陳彦霖が背の高さが違う、と指摘し、本人ではないのではないかと怪しみました。また同じ服装をした陳彦霖らしき人物を、地下鉄駅付近で見かけたという目撃情報も寄られました。

17日に親中派の香港無線テレビ・TVBが報じた、陳彦霖の母親のインタビュー報道もおかしなところがありました。母親は娘が心の病であったと証言し「娘は自殺であり、他殺ではない。みんな騒いで私や家族に“騒擾(嫌がらせ)”を与えないで」とコメントしています。

ですが、この女性は本当の母親ではない、という指摘があがりました。そして11月11日に、不思議な“飛び降り自殺体”が発見されました。建物から飛び降りた自殺なのに、周辺に流血がない中年女性の遺体でした。その遺体の写真がネットに流出しましたが、陳彦霖の母親にそっくりだと噂になりました。

その後、韓国メディアのKBSのスクープで、警察内部の匿名告発がありました。それによれば、陳彦霖事件は上層部から自殺以外の方針で捜査するなと、現場への指示が下っていたそうです。

こういう背景を考えると、実は香港デモの犠牲者は、私たちが考えるよりも多いのかもしれないのです。?

※本記事は、福島香織:著『新型コロナ、香港、台湾、世界は習近平を許さない』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

〈福島 香織〉

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