日本企業が中国市場に投資することで生まれる大きな“リスク”とは?

習近平政権は、EVやAI、5Gなどの将来性のある分野の普及に向け、外資の投資を催促しています。いずれも軍事に転用されうる最先端技術をともなう分野です。日本企業が中国にビジネスチャンスを求めて、最新鋭技術を携えて対中投資をするのは、軍拡や人権侵害をともなう中国の全体主義路線を助長することにもつながる危険性があると、経済一筋50年のベテラン記者・田村秀男氏は警鐘を鳴らす。

■日本企業に根強く残る中国市場への“幻想”

おカネの問題に関して、中国は日本に大きな期待を寄せ、あの手この手を使って中国への投資を呼びかけています。しかし、日本の企業は中国側の甘い誘惑に乗るべきではありません。中国経済に対しても甘い“幻想”を抱くべきではありません。

これから先、中国に投資をする場合には、政治的なリスクのみならず、経済的なリスクも見据えた現実的な判断が必要になってきます。

▲日本企業に根強く残る中国市場への“幻想” イメージ:PIXTA

安倍政権時はコロナショックを機に、産業界に「脱中国」を呼びかけるようになりました。新型コロナウイルスの感染爆発で中国でのサプライチェーンが寸断したことを受け、生産拠点が集中する中国から日本への国内回帰や、第三国への移転を促しています。

2020年度第一次補正予算では、緊急経済対策の一環として総額2435億円を盛り込み、生産拠点を国内や第三国に整備する場合には、建物や設備導入費用の一部を補助することを決めました。

▲安倍晋三前首相 出典:ウィキメディア・コモンズ

しかし、主要企業の間では脱中国のムードはあまり盛り上がっていません。むしろ、対中投資を増やす動きすらあります。まさに「笛吹けど踊らず」です。もちろん政府も、これからもっと予算を積んで「脱中国」支援を手厚くしていく必要はあるでしょう。

次のグラフは、日本企業の設備投資を中心とする対中直接投資の推移です。投資実行額から投資回収分を除いた「ネット投資」と、投資回収額を投資実行増額で割った比率を追っています。

▲日本企業の対中直接投資の推移

基準となる投資額は各年4月までの12カ月合計です。投資回収額は、現地の子会社から本国の親会社への収益還元が主体です。日本企業の対世界全体の投資回収比率は7割前後なのですが、こと中国に関しては2019年まで3割にも満たず、極端に低くなっています。

その傾向はさらに加速しており、2020年4月には単月ベースで14%にまで落ち込んでいます。2019年4月〜2020年4月の1年間でみてもわずか17%に過ぎません。他の地域では投資実行額を増やしても、同時に回収分も増やすのでネット(正味)の投資はさほど増えないのですが、対中国だけはネット投資が増加し続けています。

安倍政権が「脱中国」企業支援を打ち出した2020年4月でも、投資実行額は前月比で405億円、ネット投資は664億円それぞれ増えています。

一方、回収額は258億円減っているのですが、投資回収を手控えるのは、その分、現地への再投資を増やすことを意味します。つまり、相変わらず日本企業は「世界の工場」中国にどっぷりと浸かっているというわけです。

新型コロナウイルスのパンデミック後も、対中ネット投資を上積みするのは、日本企業の姿勢が中国に対してより協力的になっていることを示します。

■対中投資は軍拡や人権侵害を助長することにもなる

その代表的な企業はトヨタ自動車です。トヨタ自動車は2020年2月末、中国・天津に総額1300億円を投じ、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)など環境対応車の生産工場を建設する方針を固めました。

また、6月には中国の大手5社と、水素燃料で走る燃料電池車両(FCV)の中国での普及を目的とした新会社設立の合弁契約を締結したと発表しました。

▲対中投資は軍拡や人権侵害を助長することにもなる イメージ:PIXTA

この動きは、最先端の燃料電池の技術を中国に渡してしまう恐れにもつながります。燃料電池は今や軍事関連の一番のコア技術になっています。ミサイルやレーダーなど、あらゆるものに応用が利くからです。それを中国に渡すことほど恐ろしいことはありません。

こうした日本企業の動きの背景には、やはり日本の主要企業の間で中国経済への“幻想”が一向に弱まっていないという現実があります。

習近平政権は、EVやAI、5Gなどの将来性のある分野の普及に向け、外資の投資を催促しています。いずれも軍事に転用されうる最先端技術をともなう分野です。加えてAIは、共産党政権が弾圧してきたウイグル人やチベット人などの少数民族への監視体制を強化するための主力技術にもなります。

日本企業が中国にビジネスチャンスを求めて、最新鋭技術を携えて対中投資をするのは、軍拡や人権侵害をともなう中国の全体主義路線を助長することにもつながります。今後の中国の動向次第では「日本の民間企業が勝手にやったこと」では済まされないような国際問題にも発展しかねません。

また現在、アメリカを中心に西側世界で広がる対中警戒と脱中国の流れにも逆行するので、中国市場以外でのビジネスチャンスを失うリスクすらあります。これからは日本政府のみならず、日本の企業も、中国に協力的な姿勢がもたらす“親中リスク”をしっかりと認識すべきです。

■小説『1984年』で描かれた監視社会が現実に

中国はご存じの通り大変な監視社会です。監視カメラ市場は現在、中国が圧倒的なシェアを占めています。14億人の人民を絶えず監視する必要があることから、世界一のマーケットになっているのです。

中国メーカーはたくさんあります。監視カメラは最先端技術の結晶なので、中国のハイテク産業が活きる分野でもあります。しかし、それらの技術の多くはもともと日本やアメリカから来たものです。

▲新疆ウイグル自治区ウルムチの監視カメラ 出典:PIXTA

中国で電子決済が日本よりもはるかに普及しているのも、監視社会が背景にあります。キャッシュレス経済を通じて個人の生活や消費行動がデータ化され、共産党政権のもとに集められているのです。中国で生活している人々からすると、自分の手の内をすべて政府に知られるわけですから、たまったものではありません。

全体主義国家によってハイテクが活かされるというのは、本当に恐ろしいことです。中国の監視システムには、人々の自由を奪うという目的があります。まさに、イギリスの作家ジョージ・オーウェルが小説『1984年』で描いた恐るべき監視社会が、中国共産党の手によって実現されようとしているのです。

▲ジョージ・オーウェル 出典:ウィキメディア・コモンズ

中国は今や、その監視システムを全世界に広げようとしています。その尖兵になっているのが、中国の大手通信機器メーカーであるファーウェイやZTE(中興通訊)です。

すでにアフリカのネットワーク通信は、ほぼファーウェイのシステムに取り込まれ、中国式の監視システムそのものが、アフリカ各地の独裁政権や独裁者に輸出されているという現実があります。

また同様に、カンボジアやミャンマーなどの東南アジアの国々にも、中国のハイテク機器の普及とともに中国式の監視システムが浸透しています。すでに中国はハイテク産業を通じて、それを受け入れた地域に強い政治的な影響力を持っているのです。

アメリカは、オバマ政権までは中国のハイテク覇権の動きを容認していました。むしろ、アメリカのハイテク産業の収益にもつながると喜んでいたほどです。

▲オバマ第44代米大統領 出典:ウィキメディア・コモンズ

■トランプ政権や香港の若者が気づいた危険性

しかし、トランプ政権がその危険性に気づきました。そのためトランプ政権は、単なる経済や貿易の問題としてではなく、安全保障の問題として、ファーウェイやZTEをアメリカから排除しようとしています。

日本もアメリカにならって、経済と安全保障を一体のものとして対中戦略を立てていかなければなりません。中国をこれ以上膨張させないためにも、日本政府は、企業の投資先が国内に向くよう、日本経済を復活させる責任があります。それと同時にもっと本気で“脱中国”を推進しなければなりません。

さもなければ、これからも日本のおカネと技術はどんどん中国に流れ、日本の脅威、さらには世界の脅威となって“還元”されてしまいます。

せっかくコロナショック前には、米中対立で窮地に追い込まれていた中国経済を、日本のおカネと技術が救うことになってしまうのです。我々日本人にとって、これほどバカげた話はありません。

ありえない日本の財政破綻のリスクよりも、現実として起きている中国の膨張によるリスクのほうが、よっぽど「次世代にツケを回してはいけない」大問題です。そういう意味では、コロナショックは大変なチャンスを日本に与えてくれたと思います。コロナショックがなければ日本の政財界は「脱中国」など考えようともしなかったはずです。

全体主義国家の中国がこのまま膨張を続けていく限り、今の香港で起こっている問題は、いずれ日本でも起こり得ます。中国の影響力はすでに日本の経済界に浸透し、地方にも波及し始めています。政府も、国会も、中国に対してはまともに文句すら言えないのが現状です。

これがいかに恐ろしいことであるかを、我々日本人は、香港を必死で守ろうとしている若者たちから学ばなければなりません。

※本記事は、田村秀男:著『景気回復こそが国守り 脱中国、消費税減税で日本再興』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

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