日本人が住みたい国・マレーシアでも感じた「海外にいる」という感覚

日本人が住みたい国として人気なのがマレーシア。温暖な気候や物価の安さ、日本から遠すぎず近すぎない飛行機で約7時間というのも理由だろう。しかし新型コロナウイルスにより発令された活動制限令は、現地在住者に「海外に住む」「国境を越える」ということを改めて感じさせることになったようだ。

▲マレーシア 出典:PIXTA

■政府の緊急記者会見で街はゴーストタウンに

「3月16日の22時に実施されたマレーシア政府の緊急の記者会見により、3月18日から31日までマレーシア全土に活動制限令〔通称MCO:Movement Control Order〕が発令されましたので、明日から在宅勤務でお願いします」

3月17日の早朝、会社からこのようなメールを受け取った。世界を取り巻くコロナの現状についてはニュースでも見ており、各国がロックダウンを始めているのも知ってはいた。しかし、それを対岸の火事のように見ていたのは、私だけだったのだろうか?

「MCO」とは俗に言うロックダウン、都市封鎖のことである。

マレーシア政府の発表後、食料の買い出しに出かけたが、レジは長蛇の列、乾物や缶詰など長期保存可能な食材は品薄、トイレットペーパーはすでに品切れだった。

オンラインサイトを見ても、品切れの商品がいつもより目立つ。薬局・スーパー・病院など日常生活に必要な商店や施設以外はクローズされ、シャッターが下ろされた街を見ると、まるでゴーストタウン、いつか見た映画のシーンのようだ。

年中暑い国の国民全員が、マスクをして外出する日が来るとは誰が想像できただろうか? マレーシア人の温厚でゆるやかな国民性として、通常はゆっくりと物事が進み、良い意味でも悪い意味でも融通がきく、しかしこのMCOに関しては、マレーシアは別のふたつの顔を見せてきた。

▲マレーシアの国旗

■のんびりした国で突如として始まった厳しい制限

ひとつはスピードである。MCOのアナウンス後、たった2日でマレーシア政府により州をまたいでの移動、不要不急の外出の禁止、車1台当たりの乗車人数の制限、など細かい制限が開始された。

モスクでのクラスター感染も報告されていたので、モスクでの金曜礼拝も禁止になった。国民の70%がイスラム教のマレーシア、ムスリムにとってモスクでの金曜礼拝が禁止されるということは、長年大切にしていたモノを、急に奪われてしまったような感覚に陥ったのではないだろうか?

そして、ふたつ目は規則に対する厳しいチェックと罰則だ。MCO中は、飲酒運転のチェックのように、道路には警察が待機していた。1台1台車を止め、1台当たりの乗車人数が規制を超えていないか、不要不急の外出をしていないか、州をまたいでの移動をしていないかをチェックするためだ。

私も買い物から帰る際に、Grabというタクシーの配車アプリを使用し自宅に向かっていたが、警察のチェックに遭遇し、どこに行っていたのか? どこに帰るのか? などの質問を受けた。

マレーシアでは、外国人が出歩く際はパスポート所持を義務付けられている。普段は紛失が怖くて持ち歩かないが、今は警察に提示を求められる可能性が高いので、外出の際は必ず所持するようにと、ローカルの友人からアドバイスをもらっていた。

このときは、警察にパスポートと住所が記載された電気料金の検針票、買い物のレシートの3点を提示し、不要不急の外出をしたのではないこと、州をまたいでの移動をしていないことを証明し、ようやく無事に自宅に戻ることができた。

MCOの規制を甘く見ており、ジョギングしていた日本人が警察に一時拘束されたとのニュースも耳にした。MCOの規制に反すると罰金、場合によっては6ヶ月以内の禁固を課せられる。

▲MCOの規則(マスク着用、車の乗車人数制限)を破ると罰金、もしくは内容により禁錮6ヶ月という政府からのアナウンス

■政府運営の追跡アプリでチェックされる生活

2020年のマレーシアで一番聞いた言葉は「MCO」。そして一番目にしたものは、マレーシア政府運営のトレースアプリ「My Sejahtera」の青いマークではないだろうか?

MCOのためクローズしています。MCOのため営業時間を短縮しています。MCOのため収容人数に制限を設けています。などと、あらゆるアナウンスに「MCO」の言葉が入っており、この言葉を聞かない日はなかった。そして町中あらゆるところで、マレーシア政府運営のトレースアプリのマーク「My Sejahtera」を目にした。

▲Traceアプリ「My Sejahtera」をスキャンする場所

ショッピングモールなど商業施設の入口では、入る前にQRをスキャンした後、体温チェックが行われる。

それ以外でも、公共のバス・電車、小さな屋台にレストラン、そしてビルやコンドミニアムと、人々が同じ場所に一時的に集まる場所に入る際には、基本的に全て導入されている。スキャンせずにバスに乗ろうとしていた人が、ドライバーに注意されてバスに乗れなかった、という光景に遭遇したことがある。

新型コロナウイルスにより人々の行動で大きく変わった点は、やはり人の集まりに消極的になった点ではないだろうか? マレーシアは、マレー系・中華系・インド系の3民族がミックスする多文化国家である。

中華系のチャイニーズニューイヤー、ムスリム系のハリラヤ、そしてインド系のデイーパバリ、1年に3つ各民族のお祭りが開催される。MCO中にも、ハリラヤやデイーパバリがあったが、ローカルの友人にお祭りの様子を聞いたが「いつもより控えめで寂しいお祭りだったと」と口を揃えて言っていた。

▲ブルーモスクの外観。 通常であれば観光客で賑わっている

■パンデミックのなかで海外に住むということ

その後、MCOは延長に延長を重ね、CMCOと名前を変え、段階的に緩和されてきているが、2020年12月の時点では一部の活動に制限がかかっている。私がコロナ環境のなかで一番大きく感じたことは「海外に住む。国境を越えるとはこういうことである」という現実を、身を持って体感したことだ。

住みたい国ナンバーワンに何年も選ばれているマレーシア。温暖な気候、物価の安さ、理由はさまざまだが、日本から遠すぎず近すぎない、ほどよい距離という理由も入っているはずだ。日本から飛行機で約7時間、JALやANAはもちろん、ローコストキャリアのエアアジアも安価でほぼ毎日運行していた。

私も、もし緊急事態で何かあっても、すぐに帰国できるという距離感が魅力であり、移住決定の理由の1つでもある。

しかし、いざMCOが開始されると、飛行機の便数は大幅に減便され、空港に行くにも警察の許可書がいる。日本に帰国しても、マレーシアに戻り再入国する際は、かなりの手続きや手間がかかる。保持しているビザによって手続きが違うが、再入国する際は、政府指定のホテルに2週間完全隔離という、精神的にも肉体的にも大きな負担を強いられることになる。

現地採用として働いていた友人は、たまたま偶然にも日本に一時帰国中にマレーシアがMCOを開始したため、再入国できていない状況が続いている。「どうか家族に緊急事態が起こって帰国せざるを得ない状況にならないように」と毎日祈っていたのは、海外在住邦人全員に共通することではないだろうか?

今までは飛行機でいつでも帰国できる、という前提があったが、コロナで前提が崩れてしまった。友人と冗談交じりで「このまま飛行機が1便も飛ばなくなったら、どうやって日本に帰るのだろう?」と話したことを覚えているが、話しながら現実になる可能性もゼロではないな、と本気で思ったことがある。

世界で一番信用されているという、日本のパスポートを有効活用し、自由な生き方を求め、ノマドワーカーとして海外を点々としながら生活する人は増えているようだ。私もそれを夢見ている1人である。

一方で、このような世界的なパンデミックが起こった際には、日本での常識や慣習が通用しないということを目の当たりにし、身を持って感じた今「海外に住む。国境を越えるとはこういうことである」と思い知った。

これを書いているのは、2021年まで残すところ3週間となった12月だが、いまだ行動制限が残っている。外出の際のマスク着用、アプリのスキャンは現在も継続中である。今の状況は、終わりの見えない長いトンネルの中にいるようだ。1日も早く、各民族のお祭りを心から楽しめる平穏な日が来ることを切実に願うばかりだ。

りんごちゃん
日本からマレーシア支社に社内転籍で渡馬し、在馬2年目。マレーシアの多様な食文化に惚れこみ、ローカルヌードルを堪能する日々を送る。

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